kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



「ツカむ!話術」は、ハーバード流 話すテクニックの解説本

 話術のエキスパートであるお笑い芸人パックンは、ハーバード大学卒業のインテリでもあり、アメリカ大統領のスピーチの研究をするなど言葉の達人である。そんな彼の「ツカむ!話術」は、スピーチ・議論・交渉・雑談などのシーンで”ツカむ”ための話す技術を記している。

 あなたは話すことが得意ですか?
 話の上手い・下手は、性格ではない、技術である。日本人は、話下手である原因を自分の性格のせいと考えがちである。しかし、そうではない。話術は技術であり、トレーニングにより上手くなるのだ。日本の学校は話す技術を教えない。アメリカでは小学生の頃から話すトレーニングを行うのとは、大違いだ。
 この本を参考にしてお笑い芸人の話術を私は分析してみた。高密度にテクニックが使われていて、驚いた。彼らも、話術(テクニック、コツ)を使っているのだ。感性だけで話しているのではない。

 本書では、話術を3種類、エトス・パトス・ロゴスに分類して説明している。
 

エトス


 「営業は、モノを売るのではなく、人を売るのだ」という言葉がある。営業マンにとってお客様からの信頼が何より大事、という言葉だ。これがエトスだ。エトスとは、話し手を信用させる表現である。
 この人が言っているから聞く気になる、面白い、ということがある。自分が言っても聞いてもらえないのに、同じことを別の人が言ったら周りの人がすんなり納得した、そんなことがありませんか? これがエトスの違いである。話の内容は関係なく、話し手の人格的な説得力の違いである。
 エトス度を上げるためには、自分の実績・誠実さ・同じ価値観を共有しているなどを、相手にアピールすることが有効だ。例えば、「八年間営業をやった身として、物売りの難しさは分かります。」と言うと、営業の経験が長いんだったら分かってくれると相手に感じさせることができる。

 名著「影響力の武器」では、エトスについて詳しく説明している。

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

 

パトス

 「このままだとダメ!、すぐにやるべき○○」、「間違いだらけの○○」みたいな言葉をネットでよく見ませんか?例えば、「マンネリ化したカップルの危険な傾向7つ!このままじゃ別れるかも」(KOIMEMO)など。このような危機感を煽ってくるフレーズがネットにはあふれている。これがパトスだ。
 パトスとは、不安・恐怖・喜びなどの感情に働きかける表現である。話術の巧みな人は相手の感情に働きかけて相手の気持ちを動かすのだ。感情にアピールすることで、論理とか科学では説明できないことでも受け入れさせることができる。
 コツは、まず狙う感情(期待感、喜び、恐怖、危機感など)を決め、ストーリーを使ってそれを煽ることだ。ストーリーとは、時間的・因果関係的に前後のある話。例えば、男子が女子を口説くときに、「おいしいレストランがあるから行かない?」と言うのではなく、「イタリアで修行し、東京の有名ホテルで働いた後、自分の店を持ったシェフのいるレストランに行かない?美味しいっていう話だよ」と言うと、相手の期待感にアピールすることができる。
 

ロゴス

 論理的に説明されて納得した、という経験はありませんか? それがロゴスである。ただし、ロゴスは論理だけでなく気の利いたフレーズなど言葉を使った説得表現だ。
 演繹や帰納といった論理以外のテクニックとしては、比較・比喩・反復などがある。
 吉野家の「はやい、うまい、やすい」もロゴスだ。トントントンとリズミカルに言うと、相手にアピールできる。「セブン、イレブン、いい気分」もロゴス、これは韻を踏んでいることもあり、リズムが良い。

感想

 話術は技術、上手く話せるかどうかはトレーニング次第。では、どうやってトレーニングすればよいのか?トレーニングの第一歩は、テクニックを知ることだ。知識として知らなければトレーニングできない。
 テクニックを覚えたら、それを使ってみる、人の話を分析してみる。そうすることで、テクニックが自然と使えるようになる。
 本書は、そのテクニックをエトス・パトス・ロゴスに3分類しており、覚えやすい。
 
 本書の後半では、パックンが東工大で行った挨拶を、自身で分析している*1

 皆さん、こんにちは、パトリック・ハーランです。
 まずは僕の名前の由来からご紹介しましょう。イギリスから来た僕のご先祖様の苗字は”Harland”だったんですが、アメリカでは”Harlan”になりました。というのは、家族を連れてアメリカにわたることにしたハーランド家の三人の男たちは、船で大西洋の荒波を渡っているとき、大嵐に襲われて、あわや難破するかという事態になってしまった。そこで「まずいぞ、船が重い!いらないものを捨てよう」といろいろなものを海に投げ捨てる中、Harlandの「D」も捨てたんだ・・・・・・と、僕は父から教わりました。
 そんなうそつきな父の子として、僕は1970年11月14日に生まれました。

この部分については、イギリスからアメリカに渡った話は日本人にとって遠くて興味が湧かないため、情景描写を細かく入れて(「大嵐に襲われて、あわや難破するか」)いる。これは、映画「タイタニック」を観た人であれば船が難破する様子を思い浮かべられると踏んでいるのだ。

 本書自身、話術のテクニックをふんだんに盛り込んで書かれている。そのため、2度読みがお勧めだ。一度目は話術のテクニックを知るために読み、二度目は本書の記述にどんなテクニックが使われているか分析するために読む。二度読むことで、各々のテクニックを使う場面が分かる。

まとめ

 本書は、話術のテクニックを解説した本だ。エトス・パトス・ロゴス以外にも、多数のテクニックが紹介されている。

  • ストーリーで話す
  • ディテールを話す
  • コモンセンスで価値観を共有する
  • 一部を切り出すフレーミングで説得力をつける

 また、「第8章 騙す話術の見抜き方」では、口の上手い人が仕掛けてくる罠にはまらないためのコツも記している。論理の落とし穴の紹介が特に面白い。

*1:パックンは東京工業大学でコミュニケーション学を教えている。