kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



「失敗学実践講義」に見る、事故・不正はやった方ではなくやらせた方に原因がある

 失敗からどこまで多くを学ぶか、それが失敗学の神髄である。 
 その失敗学の畑村教授の本「失敗学実践講義」では、JR福知山線脱線事故など、9つの事故・事件がなぜ起きたのか「失敗学」として分析している。
 
 本書の中で一番気になった部分を引用する。これは、wikipedia:東海村JCO臨界事故

原因を作った発注元と受注先の力関係
 事故の背景をもう少し掘り下げてみましょう。たとえば、こうした”無謀な”事故の遠因によく上げられるのが、発注元との力関係です。このケースでも、発注元の意向が間違いなくいびつな判断原因の一つになっています。
 核燃料の発注元は動燃(当時、動力炉・核燃料開発事業団)ですが、彼らの希望は、要求しているレベルのものを期限内に注文量だけ安価で手に入れることです。ところが、この要求が実際は実現が難しいものであったならば、受注先は大変なプレッシャーを受けることになります。
 前述したように、事故当時JCOは、たとえ無理な注文でも発注元の要求には応えなければならない状況に置かれていました。定められた量の七倍の溶液を入れる異常な作業が常態化していたのも、こうした状況と無関係ではありません。
(中略)
 こうした場合、現実にトラブルが発生すると、発注者は「そんなことをやれと言ったわけではないので私のせいではない」と知らん顔をします。一方で、受注者で事故を起こした方の人は、「言われたからやっていたのに」と泣き言を言います。
(中略)
 こうした主従関係に端を発する問題は、最近では企業の生産部門と設備保守部門との間にも起こっています。トラブルの原因は、人件費を抑制するために企業が設備保守部門を別会社・子会社として切り離す最近の風潮にあります。合理化の名のもとにこのようなことが進められると、生産を行っているメインの部門(親会社)の主張ばかりが強くなり、設備保守部門(子会社)の声は小さくなります。その毛kkあ、設備保守部門が無理を強いられるようになり、そのことが原因でトラブルが発生するようになるのです。

 
 この事故を簡単に説明する。
 動燃(現在の日本原子力研究開発機構)が核燃料の製造をJCOという会社に請け負わせていた。JCOは作業を効率化するために大量の放射性物質を一度に扱い臨界事故を起こした。
 著者の主張は、動燃がJCOに無理なスケジュールを押し付けた結果、通常の作業手順ではそのスケジュールを守ることができず、そのためJCOが不適切な効率化された手順で作業を行い、臨界事故となった。
 つまり、事故の真因は、動燃(現在の日本原子力研究開発機構)にあると著者は主張している。
 この主張は直感的には受け入れがたい。しかし、日本原子力研究開発機構がまた被ばく事故を最近起こしたことを鑑みると、事故の原因は日本原子力開発機構にあると考えざるを得ない。
【HUFFPOST】「ビニール破裂は想定外」国内最悪の内部被曝事故、またもずさん管理

他の事例として、三菱自動車の燃費偽装事件を挙げることができる。

燃費試験の不正事件2016年(平成28年)4月20日17時、日産自動車との合弁会社であるNMKVで開発した軽自動車の燃費試験について、燃費を実際よりも良く見せるため、国土交通省に虚偽のデータを提出していたことを明らかにした。該当の車両は、三菱ブランドでは「eKワゴン」「eKスペース」、日産ブランドでは「デイズ」「デイズルークス」であった。協業先に当たる日産自動車が、前記該当車の燃費を実際に測定したところ、届出値との乖離がみられ、不正が発覚した。実際よりも5〜15%程度良い燃費を算出しており、軽自動車の業界基準であるJC08モードで30km/1L以上という水準に見せかけていた。該当車種は即日販売及び出荷停止となった。 相川哲郎社長は、4月26日に石井啓一国土交通大臣への報告後の記者会見で改めて謝罪し、三菱自動車工業について「会社の存続に関わる程の大きな事案」と述べた。低排出ガス車認定制度(エコカー減税)について、総務大臣高市早苗は「燃費が変わった場合は、その差額(自動車重量税自動車取得税)を納めて頂く」と述べている。
さらに、軽自動車に限らず1991年(平成3年)以降に発売した多くの車種において、違法な方法で燃費試験をしていたことも明らかになった。さらに後日、1991年(平成3年)から25年間に渡り、10・15モード燃費で計測した燃費データの偽装をしていたことが発覚した。詳しい車種及び台数は現時点で調査中とするものの、今後さらに増える可能性がある。

不正の概要
軽自動車においては、以下の違法行為が明らかになっている。
道路運送車両法で認められていない「高速惰行法」と呼ばれる、違法な測定方法による走行抵抗の測定[
・試験結果の中から「恣意的に低い値だけ」を抽出し、燃費値に有利な走行抵抗値を捏造
・社内会議により決めた目標に沿うように燃費測定に用いるデータの改ざん
1991年(平成3年)以降に三菱が製造したすべての車両において、以下の何れか又は複数の違法行為が行われていた。なお当該車両については、開発段階において正規の走行試験を行っていなかったものの、事件発覚後に行った惰行法による燃費測定の結果、差異が3%以内に留まったことから、三菱自工は販売停止等の処置は行わないとしていた。しかしその3 %の差を重くみた国交省が独自に測定を行った結果、9車種中8車種において最大9 %の差が生じており、再測定においても不正が行われたことが発覚した。これを受け三菱自工は販売停止等の処置をとることとなった。
・軽自動車同様「高速惰行法」と呼ばれる、違法な測定方法による走行抵抗の測定
・試験結果の中から「恣意的に低い値だけ」を抽出し、燃費値に有利な走行抵抗値を捏造
・成績表に記載すべき日付や天候の捏造
・走行試験により求めなければならないデータの机上計算による算出
・異なる車両の測定結果を恣意的に組み合わせたデータの算出

wikipedia:三菱自動車工業より)

燃費偽装の原因は、三菱自動車(親会社)が三菱自動車エンジニアリング(子会社)に不当な圧力をかけていたためだ。

軽自動車の不正では、三菱自動車は燃費目標達成業務を、子会社の三菱自動車エンジニアリング(MAE)に丸投げしていたほか、子会社が実施した試験方法が「高速惰行法」であったこと、さらに、試験結果が意図的に低い値を抽出した捏造であることを知りながら、その内容を承認していた。この件について、益子会長は力のない子会社に、レベルの高い車の開発を丸投げしたことが、事件の背景にあると述べている。

wikipedia:三菱自動車工業より)

 さらに別の事例として、東芝の不正会計問題を挙げることもできる。
【iza】東芝・歴代社長の「圧力語録」 社内では隠語も飛び交う

逆にいい事例として、ヤマト運輸を挙げることができる。
 【HUFFPOST】ヤマト運輸、Amazonの当日配達撤退へ ドライバーの負担軽減で
アマゾンの荷物を運んでいるヤマト運輸が、アマゾンに「ノー」を言ったのだ。アマゾンはその発注量の多さから運輸会社を支配している。それに「ノー」を言ったヤマト運輸の決断を、「失敗学実践講義」のコンテキストで考えると、その素晴らしさがと必要性が浮き上がってくる。

まとめ

 「失敗学実践講義」は、失敗の本質をえぐりだす。
 発注元・受注者のようにノーと言えない関係において、発注元が無理な要求をすれば受注者は安全を犠牲にしてその要求に応えようとし、事故が起こる。
、この類似事例は、様々なところで見ることができる。親会社・子会社、上司・部下など ノーと言えない関係において圧力をかけると、事故・不正が生じている。
 このように例が多ければ、不正・事故をやった方が悪いのではなく、やらせた方が悪いとするのが妥当だろう。

追記

 トヨタは傘下の部品会社に厳しいコストダウンを強いることで有名。ただし、トヨタは、部品会社がコストダウンの額を言うだけでは納得せず、なぜそのコストダウンが可能なのか根拠を求める。これって、真っ当に実行可能なプランなのかチェックする機能を果たしているのだと、感じる。

失敗学実践講義 文庫増補版 (講談社文庫)

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