AI(人工知能)がbuzz word(流行り言葉)になり、政府・企業・アカデミア・コンサルなど様々な立場でAIに関する情報が発信されている。
こういう状況になるとネットで情報を漁るのは無理である。ネットバブル、自分の関心のある情報しか手に入らない状態、のため全体像がなかなか掴めない。頼りになるのは書籍、しかもなるべく様々な立場の作者のものを読むのが良い。
「ビッグデータと人工知能」(西垣通)は、AIに対して冷めた立場をとっている。
著者は日立製作所でエンジニアをした後大学教員となった人物。AIの技術者は、AIに対して冷めた態度をとる者が多い。西垣も同様だ。
AIに対してその進化を肯定するキーワードに”シンギュラリティ”がある。wikipedia:レイ・カーツワイルが有名にした言葉で、一言で言えば「人間を超えるコンピュータの出現」ということだ。ちなみにカーツワイルはAIの技術者ではない。
西垣は、シンギュラリティを否定する。
カーツワイルがシンギュラリティ予言を行ったのは2005年だが、当初はそれほど周囲の注目をひかなかった。
これは当然のことと言える。何しろ、収穫加速の法則(LOAR)からすべてを導き出し、「父子」まで導き出す論法はあまりに粗雑すぎる。荒唐無稽といってもいいい。ムーアの法則の拡大解釈といっても、度が過ぎている。カーツワイルはコンピュータ工学だけでなく、遺伝子工学、ナノテクノロジー、ロボティクスの発展も考慮にいれているが、それらはまだ実用化されていない未来技術がほとんどだ。だから、相変わらずのトランス・ヒューマニストのたわごととして、マスコミには相手にされなかったのである。
だが、2010年代に入って、シンギュラリティ問題はにわかに脚光を浴び始めた。これは、前章で述べた深層学習の成功がきっかけと言ってまちがいない。
深層学習(Deep Newral Network)のモデルが脳をに似ているため、深層学習を推し進めていけば脳に到達できると社会は思った、と著者はいう。
さらに、AIには目標設定ができないゆえに、人間を超えることはできないと著者は言う。
基本的に人工知能には、問題解決はできても目標設定は無理、ということである。なぜなら目標というのは、生命活動と直結して「(特定の状況で)何が大切か」という価値観に沿って設定されるからである。
そして、プライバシーに関する問題は、次のような定義から出発してシンギュラリティを否定する。いわゆるプロファイリングからのレコメンデーションにより主体的に判断する権利が歪められるという。
プライバシーとは「他人に知られたくない私的な事柄を秘密にすること」だと考える人は、生活の細部を知られるだけで不愉快になる。だが、ことはもっと大きい。より広く、プライバシーとは「自分の生活を、干渉されることなく主体的につくっていく権利」だと考えることもできる。
感想
シンギュラリティ(人間を超えるコンピュータの出現)とは何だろう?
例えてみれば、攻殻機動隊の世界と言えよう。電脳によって意識を持つ人々が生活する世界。電脳とAIの差は、ゴーストの有無として描かれている。ゴーストとは価値観に基づき目標を設定する能力と言えそうだ。
では、ゴーストを持たないAIとは何か?
例えるならば、ターミネータの世界と言えよう(スカイネットは脇に置いておく)。主人公を狙うターミネータは、その与えられた目標(サラ・コナーの抹殺)に向かって、最善の行動を取る。もし、ターミネータが目標を達成したならば、それは目標を失い動きを止めるように思う。
著者の西垣の主張は、攻殻機動隊は無理だがターミネータはOKというところだ。
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