日経エレクトロニクス2009年10月19日号にスマートグリッドの特集が組まれていた。よく調査しているが、煽った文章で若干読みづらいため、ここに内容をまとめてみる。また、私見ながらスマートグリッドをどのような視点で見るべきか述べ、今後を予測してみる。
スマートグリッドの現状
まず各国の動きに関して。
- 欧州は、再生可能エネルギー(風力、太陽光発電等)の活用を推進している*1
- 米国は電力インフラが老朽化しているため、オバマが政府の金を突っ込んでインフラ刷新を行おうとしている*2。この刷新の際に、欧州の動きに合わせて再生可能エネルギーの活用を推進するとともに、米国お得意のスマートメータの活用も狙っている。
- 日本では、高度な電力インフラが広がっており、また国土的に再生可能エネルギーの使用は難しいため、スマートグリッドを国内で展開する意味は少ない。しかし、携帯電話がガラパゴス状態で痛い目にあっているため、その二の舞を避ける意味で日本企業も積極的にスマートグリッドの開発を行おうとしている*3。
技術的には、
- 再生可能エネルギーの発電量は安定しないため、その使用は電力系統の安定性に悪影響を及ぼす。これをどう防ぐかが最大の課題。
- この課題を解くアイデアが二つある。それは
- 蓄電池の利用
- スマートメータの利用
- 蓄電池の利用に関して、蓄電池のコスト高が課題。そのため、蓄電池関連各社がスマートグリッドをビジネスチャンスと捉えて開発を加速している((上述のようにオバマは予算を突っ込むと行っている))。また、電気自動車のバッテリをスマートグリッドの蓄電池に利用するというアイデアが、蓄電池コスト高問題の別の解として期待されている。
- スマートメータの利用については、デマンドサイドマネージメントの実現がその趣旨。デマンドサイドマネージメントとは、電力が足らなくなると、各家庭の機器の電力使用量を下げてもらうという制御をすること。*4
スマートグリッドを見る視点
さて、スマートグリッドの怖いところは、これが社会問題に関連して議論されることである。社会問題の議論を国際社会の場で議論すれば、それは政治問題であり、技術的な筋の良さや市場原理とはまた違った力関係で話が進む。すなわち、自国の利益・産業をどう有利とさせるかといった視点で国際社会のルールを策定が行われる*5。そのため、スマートグリッドの議論を技術の話題として見ると本質を見誤る。この点は、注意が必要である。
スマートグリッドの今後
インターネットの歴史をふまえると、以下の予測ができる。
- インターネットは電話網と比べ、低品質・低コスト(ようするに安かろう悪かろう)で電話網を駆逐した。スマートグリッドでは、電力網は日本のような高品質・高コストなシステムを必要としていない可能性がある。その場合、そのコストの低さゆえにスマートグリッドは世界に広まり、広まった後に品質を上げる努力がなされるというシナリオが描ける(「イノベーションのジレンマ」そのままのシナリオである)。
上述した政治問題の観点からは、以下の予測が出来る。
- 米国がスマートグリッド関連技術(太陽電池や蓄電池)で世界をリードした場合、例えば国連の場で厳しい二酸化炭素排出制限を各国に課し、米国関連企業が世界にスマートグリッドを売りまくるというシナリオが描ける。あるいは、米国以外の国がスマートグリッド関連技術で世界をリードした場合、核エネルギーを中心としたエネルギー源に依存する社会を許容するよう世界のルールを設定するというシナリオが描ける。
また、デマンドサイドマネージメントの観点では、以下を予測する。
- 各家庭の電力使用状態を、電力会社からコントロールすることは、少なくとも日本では成立しないと思う。しかしながら、ビルや工場のような産業設備に関しては、その規模の大きさゆえに、以下の点から実現しやすい。
- 制御の効果が大きい
- 停電対策のための蓄電池を既にもっている
- 電気料金を低く提示すれば、それはユーザ収益に直結するため応じてもらいやすい
- そのため、社会実験として産業設備にてデマンドサイドマネージメントを行いその効果を見積もり、一般家庭への展開の是非を議論するというシナリオを予想する。