今日は難しい話です。私の文章力を超える話題なので、読み手の想像力で補ってもらえると嬉しい。
まずは、十字軍の復習から。十字軍は、キリスト教徒の聖地エルサレムをイスラム教徒からキリスト教徒が奪還する神の戦いである。その背景には、聖地エルサレムを巡礼に訪れたキリスト教徒を、イスラム教徒が迫害していたという事実がある。当時のローマ教皇が迫害されているキリスト教徒の保護と、聖地エルサレム奪還を目的とした聖戦を呼びかけた。この聖戦に感銘した騎士・諸侯・民衆がこれに応じ、十字軍となってエルサレムに進撃した。ここまでは、学校で教わる表向きの十字軍である。
裏に隠された十字軍の本当の理由というのは、(以下、「大人の教科書 世界史の時間」24,25ページより)
ローマ教皇の理由
十字軍を組織した背景には、聖地奪還を名目に東西に分離していた教会を統一したい、というローマ教皇の野心があったのである。
諸侯・騎士の理由
十字軍に参加した諸侯や騎士達の目的は略奪品や領土を手に入れること
商人の理由
また商人たちは侵略戦争によって東方貿易が拡大することを望んでいたのである。
農民の理由
さらに、農民は十字軍に加わることで、借金の帳消しや土地の確保を要求することも出来た。
さて、十字軍を振り返って分かることは、
- 表向きの理由(名目)の下に、様々な理由をもった人たちが参加して運動は行われる
- 表向きの名目を信じる純な人もいる(少年十字軍の参加者や、熱心なキリスト教徒(諸侯・騎士・民衆))
- 裏の理由を持った人たちは、表向きの理由を信じている純な人をうまく利用する
自分は「純な人」ではない、「純な人」はよっぽどバカなんだと思うかもしれないが、集団でウソ*1をついているとき、それを信じたい人は自らだまされる(いかに簡単にだまされるかに興味のある人は、「人間 この信じやすきもの」を読むことを勧める。)。
さて、1990年代のIETFの成功の影響で、どうも通信業界では、自分の提案を標準化したことが成果になるようである。多くの大学の先生や公的研究機関の研究者が「標準化しました」と発表している。そういう発表の場では、「標準化してどうするんですか?」と聞くようにしているのですが、答は一様に「標準化により相互接続が実現され、市場が拡大するのです」である。さらに、「その標準って使われてるんですか?」と聞くと「将来使われます」と大体返ってくる。
さて、現在IETFの策定した仕様(RFC)の数は6295です。こんなたくさんの仕様を世の中で使うわけも無く、ほとんどがジャンクスタンダードです。では、なぜジャンクスタンダード作りにみんなが邁進するかというと、裏の理由があるからです。裏の理由とは、ずばり「研究成果に見えるから」です。
十字軍の例に戻ると、「純な人」は必ず存在していて聖戦という表向きの理由を信じています。裏の理由を持っている人は、この「純な人」を使って十字軍を組織して戦わせます。標準化に参加している人を見ると、「標準化により相互接続が実現され、市場が拡大するのです」という表向きの理由を信じている「純な人」と、「研究成果になるから」という理由を分かっている人の両方がいるように感じます。
さて、いま日本ではスマートグリッドブームです。標準化十字軍の矛先はスマートグリッドに向うことが予想されます。つまり、「何のために標準化したのですか?」の問いに「スマートグリッドで使われるのです」と答えることが予想できます。そしてその戦場はIETFに留まらず、IEEEやETSIやISO/IECへ拡大するものと思います。
第4回十字軍が(ベネチア商人の要求で)エルサレムではなくビザンチン帝国を攻撃したような、表向きの理由では到底説明できそうに無いことをやってのけたことが脳裏を横切ります。
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*1:ここでは、たくさんある理由の中で一番綺麗な理由を「ウソ」と書いている。