kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



カメラメーカの将来

はじめに

 カメラメーカの置かれている業界は、いま非常に厳しい。クリステンセンの言う「破壊的イノベーション」と、妹尾堅一郎の言う「デジタル技術による価格下落」という二つの事業環境の変化に翻弄されている。
 コンパクトデジカメをいくら売っても儲からなくなっている、という事実がその深刻さを顕著に物語っている。
http://d.hatena.ne.jp/kota2009/20110531/1306837082
 ここでは、一つの思考実験として、カメラ業界の将来を考えてみる。

今起こっていること

破壊的イノベーション

 10年前のデジタルカメラは、200万画素そこそこのスペックで玩具のようだった。その後しばらくは、性能向上にデジカメメーカは互いに邁進した。さて、いまでは携帯電話にカメラがつき、さらに携帯電話はスマートフォンにパワーアップしようとしている。この結果、写真を撮るのにカメラでなく携帯電話で十分、というように変わりつつある。
 このため、写真撮影をするガジェットを市場に供給する役目は、カメラメーカから携帯電話メーカに移ろうとしている。

デジタル技術による価格下落

 デジタル技術の進展は、撮像素子などの部品を買ってくればデジタルカメラを誰でも容易に組み上げることを可能とさせた。デジタルカメラという製品の重要部品は撮像素子であり、それを作っているのはカメラメーカではなく、ソニー東芝のような部品メーカである。例えば、最近裏面照射型CMOSの登場で高感度ノイズが随分減ったが、これに貢献したのはカメラメーカではなく部品メーカである。これは、良い撮像素子を部品メーカから手に入れれば、どのメーカでも高感度カメラを作れることを意味する。
 このようにカメラメーカが提供する価値が、部品メーカに移っているため、カメラメーカの利益は当然小さくなる。

カメラメーカの現在の戦略

 カメラメーカの今の戦略は、大きく3つに見える。一つ目は、一眼カメラへのシフト。一眼レフであれ、ミラーレスであれ、一眼カメラの利益率は大きい。それゆえ、一眼カメラへの注力を行っている。二つ目は、IT技術との融合。例えば無線LAN機能を搭載したり、GPS機能を搭載したり、タッチパネルの採用や顔認識技術の活用などがそれである。三つ目は、M&AHOYAPENTAXをリコーに売ったのがこれである。

カメラメーカの将来

 カメラメーカの将来を占う上で良い題材になるのは、スマートフォントの比較である。スマートフォンでできることをカメラでやろうとしても、ビジネス的にうまくいかないであろう。そういう意味では、上述の戦略2は近視眼的なものと言わざるを得ない。
 では、戦略1はうまくいくかというと、これも長くは続かないと思っている。写真を見るのが人間である以上、ある一定値以上の品質は過剰となる。見た目に分からない品質にお金を出すほど一般ユーザは優しくない。そのため、デジタル技術の進展に従い、コンパクトデジカメがスマートフォンにその地位を奪われているように、一眼カメラもコンパクトデジカメ(あるいはスマートフォン)にその地位を奪われよう。
 戦略3は、他の産業を見てもかなりうまく機能する。携帯電話で言えば、カシオと日立とNECと東芝三菱電機はかつては携帯電話を作っていたが、今はもう他社と合併していなくなっている。同じことがデジタルカメラメーカにも起こるであろう。一眼カメラを作っていない、富士フィルム、カシオはM&Aに巻き込まれるのは早いのかもしれない。リコーはPENTAXの活用次第。

将来のカメラ

 個人的には多視点撮影が有望なのではないかと思っている。3次元で見せたいわけではなく、撮影後のRAW現像時に様々な画像変換を行えるだけの情報量を取得するようなカメラが、技術とビジネスの先を見ると有望に見える*1

関連リンク

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

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イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)

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*1:マーケットの大きさは分からないが、