kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



学会格差が拡大する

 人工知能学会が「消えゆく学会」という討論会を7月に行った。

学会は、近い将来、ごく一部を除いて全て消滅するのではないでしょうか.

これまで学会が担ってきた、論文を集めそれを本という形で配布するビジネスデルは崩れつつあります.さらに、専門家同士が出会う場、情報を収集する場としての学会の機能も、ソーシャルネットワーク検索エンジンの発展により、消えつつあります.

極論すれば、ウェブがあれば、学会は必要ありません.権威を維持するための組織は必要ありません.

この討論会のログもネットを探すとみつかります。例えば、以下。
http://togetter.com/li/165150

 さて、IT系の学会が現在苦戦しており、今後ますます苦戦していくことはほぼ確実だと思います。この討論会で話題にならなかった(参加者が避けていたようにも思う)話として、学会の2極化というトピックがあると思います。今日はその点について書いてみたい。

学会の役割とは

 学会には色々な役割があります。まずはそれを列挙してみます。

  • 研究を進める
    • 知のストックの場(ジャーナルのアーカイブ
    • 議論の場(同好会、ギルド)
  • 研究の出口の提供
    • 研究発表の場(論文発表)
  • 研究者を育てる
    • 若手研究者の教育の場(発表練習、論文執筆練習)
  • 研究者へ権威の源泉
    • 研究者の組合(ギルド)の場

破壊的イノベーションとしてインターネット

 上述のような機能を担ってきた学会であるが、そのいくつかがインターネットによって置き換えられようとしている。たとえば、研究者が研究を進める典型的な手順は、以下のようになる。この各々のステップで学会の役割がなくなってきている。

  1. 既存研究を調べる(旧:学会ジャーナル調査 → 現:Google Scholar
  2. 検討を行う(旧:学会仲間と議論 → 現:Facebook(SNS)で知り合った仲間と議論)
  3. 検討成果を発表する(旧:国内学会で発表し、国際学会で発表 → 現:ネット仲間に発表、そして国際学会発表)

 平凡な研究者はおいといて、面白い尖った研究者ほど活動フィールドを学会からネットに移している。そして、検討成果は日本ではなく国際学会にいきなり発表する。こうなると、日本の学会に参加する必要が全くなくなるわけである。

 これまでは、複数の学会に参加する研究者が結構な数いたわけですが、今はレベルの一番高い学会に入っていれば事足りるようになっています。こうして、一番レベルの高い学会が会員数を維持する一方で2番手以降の学会の参加者が減っています。

学会をネット化すると何故困るか?

 では、学会の機能をネット上に移してはどうかと思うかもしれません。これを学会2.0と呼ぶことにしましょう。学会2.0の最大の問題は、学会サービスのマネタイズにあります。ネットサービスのほとんどが無料である中で学会2.0が有料サービスでビジネスを回していけるとは今のところ思えません。

学会が無くなると困るのか?

 学会がなくなると困るかという議論は、学会の参加プレイヤによって論点が異な理ます。学会の参加者を列挙すると、

  • 学生
  • 若手大学研究者
  • 若手企業研究者
  • 中堅大学研究者
  • 中堅企業研究者
  • 大御所大学研究者

 この中で企業研究者は学会がなくなってもあまり困らないと私個人は思っています。ただ、ネットで活躍できる研究者は有能な数パーセントに限られるでしょうから、それ以外の研究者のレベルアップの場がなくなるのは、大局的には困ったことになるかもしれません。

まとめ

 IT系の学会が苦戦している。これはインターネットが研究者の活躍の場を学会から奪っているためである。ネット社会において2番手以降の学会は苦しい運営を強いられることになると予想する。これは、極論すると、日本から学会がなくなることも想定する必要がある(大学に就職したい人は特に)。今後も注視していきたい。

補足

 このエントリはIT系の学会を想定して書いています。材料系や化学系とは異なり、IT系は研究に要する費用が小さいので、個人プレイでの研究がしやすく、ネットとの相性が良い。それに対して材料・化学のように研究活動に大きな費用を必要とする分野では、予算獲得のために学会の機能(研究者の権威の源泉(ギルド))が必須であり、これゆえに学会参加者は減らないかもしれません。IT系以外の分野に詳しい方の情報をお待ちしております。