kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



伝える力

 人に何かを「伝える」というのは難しいもので、少しでも抽象的な事柄になると「伝える」ことは非常に難しい。例えば、「昨日の映画に感動した」と言った時には、聞き手はあなたが喜んでいることは分かるが、何に感動して、感動したのは何故かなどの詳細は全く分からない。相手が仲の良い友達ならば、あなたの喜びを受け取って喜んではくれるが、全く伝わっていないのである。
 また、仕事をしていると面識の無い人と話す機会は多いのだが、初対面の人に「伝える」のは一層難しい。うまく伝わらなくて悔しい思いをすることもしばしばである。初対面の人に「伝える」のが難しいのは、相手と共有している情報の少ないことが原因である。
 本書「伝える力」の著者である池上彰さんは、NHKのTV番組「週刊こどもニュース」に11年間出演しており、ニュースの背景情報を持たない子供たちに難しいことを「伝える」ための試行錯誤を繰り返してきた人である。

 この本の中に記されている内容は、「伝える」力をつけるための基本中の基本ばかりである。この中で私が面白いと思ったのは次の3点である。

  • 矢印を使い分ける
  • 〜〜的、〜〜性は使わない
  • 分かりやすく「伝える」工夫をすると、理解が深まる

以下、それぞれの説明を行う。

矢印を使い分ける

図を使ったプレゼンテーションの説明に関する部分で、著者は以下のように述べている。

矢印には、色々な意味があります。
たとえば、
「時間の経過を意味する矢印」
「論理の流れを示す矢印」
「因果関係を説明する矢印」
(中略)
これらを区別せずに混在させて使うと、受けては理解しにくくなります。

私自身、これまで矢印の意味を考えてはいなかった。意味の違いを考えずに複数の表現を混ぜるのは、伝わりにくくなる原因の最たるものであろう。それでも、この手のことをやってしまうのは、意味に違いがあることを見逃してしまうためである。言い換えれば、意味に違いのあることを知ることが大切である。私は、本書を読むことで、矢印の意味に違いがあることを知ることができた。

〜〜的、〜〜性は使わない

「機能的な組織」という表現を例に挙げて、「〜〜的」、「〜〜性」という表現を使うべきでないと著者は言っている。意味が曖昧になりがちであるためである。確かに「機能的な組織」とは、良く考えるとどんな組織か良く分からない。例えば、少ない人数で多くの結果を出す組織のことを言っているのか、決めてから結果が出るまでの時間の短い組織のことを言っているのか、はたまたそれ以外のことを言っているのか様々な可能性がある。
 意味の曖昧な表現を使うと、なんとなくのイメージしか伝わらない。上の例では、相手がその組織を知っていれば、「機能的」という表現で通じるかもしれないが、そうでなければ「機能的な組織」という表現では「良い組織」というイメージ以上のことは伝わらない。
 このように曖昧な表現では、その解釈が相手任せになり誤解を招くこともあり得る。上の矢印の使い分けと同じように、どういった表現が曖昧であるかを知っておくことは「伝える」力を育てる上で重要である。知っていればそれを避けることができるためだ。「〜〜的」、「〜〜性」という表現が曖昧になりがちだと知ることができたのは、収穫である。

分かりやすく「伝える」工夫をすると、理解が深まる

 分かりやすく「伝える」には、上で述べたように「意味の違いに気をつけ」「曖昧な表現を避ける」ことが必要である。このためには、意味の違いを整理し、曖昧さをなくすため詳細に調べていく作業が必要である。これらの作業はより詳細に対象を知るということであり、理解することと同じである。

まとめ

本書は「伝える」力を向上するための基本中の基本について述べている。本書を読むと、どんな表現が曖昧になりがちかを知ることができる。その表現を避けることで「伝える」力だけでなく、理解する力も伸ばすことができる。ただし、本書は分かりやすく書かれすぎているために、読者に「当たり前」と思われる可能性が高い。本書を読む際には、その「当たり前」を読み解く注意深さを必要とする。

伝える力 (PHPビジネス新書)

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