kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



OpenFlowは役に立つか? ユーザ意見より

 通信業界の一部で話題のOpenFlowですが、何のメリットがあるのか分からないという人も多いと思います。私も分かりません。”柔軟性”がキーワードであるのは分かるのですが、その”柔軟性”がどんなご利益をもたらすのかいまいちよくわかりません。
 そんなとき「OpenFlowブームは本物か? ユーザーとベンダーが語る」(Publickey)を見ると、OpenFlowの現状が腑に落ちます。
 ユーザ代表は谷口氏(カブドットコム証券のIT戦略担当)と大久保氏(さくらインターネットクラウドを担当)。この二人の意見を拾ってみると、

谷口氏(カブドットコム証券) 最近は部門の壁を越えてR&Dに近いところで仕事をしています。OpenFlowに夢がある派です。ネットの海をパケットが自律的に動いている、それを実現するためにはSDN(Software-Defined Network)が絶対必要だと思います。

大久保氏(さくらインターネット) 研究所所属ということで、数年後にビジネスのネタになりそうな技術の評価、検証などをしていました。ところがある日突然、社長に呼ばれまして、おまえクラウドの開発をやれということで、さくらのクラウドのネットワーク担当をしています。

なぜSDNに注目しているかというと、従来使っていたVLANが限界にきていて、数万規模のノードではSDNが必須になってきていると考えるためです。主にハイパーバイザ型のオーバレイ方式ネットワークに注目しています。

谷口氏はOpenFlowについて”夢がある”と表現しており、大久保氏は”従来使っていたVLANが限界にきていて”と表現しています。このことから、谷口氏のカブドットコム証券では、まだ漠然とした期待のレベルであることが読み取れます。大久保氏の方は、VLANの代替として期待していることが分かります。

次の谷口氏の発言は、ユーザ側の意見として的を射てると思います。この意見に答えられるOpenFlow派の人間を私は知りません。

谷口氏 ユーザー企業にSDN/OpenFlowは必要なのでしょうか? OpenFlow製品の営業が当社に来た場合、私が言いそうなことを考えてみました。

まず「ネットワーク仮想化にすればコスト削減ができます」というセールストーク。しかし、一体何のコストが下がるんだと。SDN/OpenFlowで運用コストが下げられるかというと、すぐにはうんと言えそうにありません。

次が「インフラの自由度が上がります。新規事業を柔軟に導入し、迅速な配置が可能です」というもの。確かに自由度は増すかもしれませんし、実際にいまの現場ではハードウェアの準備に時間がかかることもあって、(ソフトウェアで実現できる)SDN/OpenFlowはそれに対しては役に立ちそうだと思う。

しかしそもそも論としてインフラの自由度が高まったとして、それを生かす事業が思いつかないから困っているんだと! SIerさんにインフラを丸投げしている会社なら、そもそもビジネスのアイデアとインフラの構築が連動していない。こうした環境でSDN/OpenFlowが役立つかというと、そうでもないと思う。

「集中管理が可能なので、社内に優れた技術者が不要になります」。でも、新しい技術を使いこなすには優秀な技術者が必要なはず。言ってることが矛盾してないか? と。

私が勝手に「システムコスト力学の第一法則」と言っているのですが、「孤立系のコストの総量は変化しない」。つまり金銭的コストが下がったとしたらその分別の何らかのコスト、例えばリスクが上昇していると見るべきだと思います。

例えば安いIaaSに丸投げしたらバックアップがなくて障害時に戻せなかったとか、アジャイル開発で速度を優先したらユーザー企業側の作業が増えたとか。

こうしたリスクを何に転化するかがビジネスでありアイデアであるのに、それを忘れて(SDN/OpenFlowを)営業されても何がメリットなのかが見えてきません。

谷口氏 証券では他社さんとの接続など月に1回くらい、多いともっとあります。海外の証券と仕事をすると実感するのは意志決定が速いこと。当社は速いほうですが、それでも負けますね。だから他社さんは(SDN/OpenFlowによるインフラの柔軟性を)そこまで欲しがるのかなあと。

 つまり、”柔軟性”なんて欲しくないと谷口氏は言っているわけです(OpenFlowに”夢がある派”の谷口氏の発言であることに注意が必要です)。


さらに大久保氏の発言です

大久保氏 SDN/OpenFlowを導入したら機器コストが下がるか? 実際試算したことがありますが、残念ながら下がりませんでした。物理ネットワークをそれなりにしなければならないし、コントローラ用にも組まなければならないし。だから馬場さんがおっしゃられたように、機器コスト低下は疑問符かなと。

しかしこれまでネットワークのコストやトポロジーの制約によって思うようなサービスを提供できなかったボトルネックを、SDN/OpenFlowで解決することで、新サービスの提供や不便だったことを解消することで売り上げ向上が図れればなと思います。

つまり、機器コストは下がらない、(OpenFlowによって)何か新サービスで売り上げ向上ができればいいなぁ、と言っているわけです。

まとめ

 OpenFlowのメリットは”柔軟性”ですが、その”柔軟性”のご利益はユーザには分からないのが現状のようです。ユーザにご利益が分からないのですから、ベンダーの言うOpenFlowのメリットはまぁまだ妄想の域を出ないでしょう。
 ユーザ側からVLANの限界(VLAN IDの数が少ない)という話が出ますが、これを解決する手段はOpenFlowだけではないですし、例えばVLAN IDのフィールド幅を広げる方が低コストで実現できることには注意を払う必要があるでしょう。他にはMPLSでも解決できるでしょう。
 個人的には、OpenFlowのボトルネックになるのはスイッチのコストになると思っています。フレームフォワーディングに必要なCAM(wikipedia:連想メモリ)の幅が広がりますので。