論理的思考(カタカナで書くとwikipedia:ロジカルシンキング)のエントリを二つ読んで、釈然としないでいる。
- 「自分を論理的だと思っている人へ/論理的思考は魔法の杖ではないって話」(デマこいてんじゃねえ!)
- 「論理的思考の一つの特徴、二つの目的」(発声練習)
二つのエントリの内容には全く同意する。釈然としないのは、今更こんなエントリが多くのブックマークを集める理由である。論理的思考なんてものは、江戸時代からありそうな物だし、実際に宮本武蔵の五輪の書なんて論理的思考で書かれている。それなのに、いまだに論理的思考がありがたがられているのは、(1)論理的思考ができない人が多い、(2)論理的思考の使い所が分かっていない人が多い、のどちらかあるいは両方なのだろうか。あるいは、(3)論理的思考さえ身につければ成功すると考えている人がいるのかもしれない。
(1)に関して、論理的思考とは何かとか、論理的思考の身につけ方については、関連書籍が多数出ているのでそれらを読んで欲しい(例えば、「ロジカル・シンキング (Best solution)」)。
論理的思考の使い所
(2)に関して、論理的思考は何にでも使える万能ツールではない(上の二つのエントリはこれを指摘している)。では、どういう場面で論理的思考が役に立つのだろうか。
自分が考えるとき
これは当たり前のようだが、他人の話の矛盾を突っ込む人は多い。雑談の場なのに「それ、さっき言っていることと矛盾するよね」などと言う人だ。論理的思考で一人相撲をとる人と言っても良い。
相手が論理的思考で話を展開し、その論理をチェックして欲しいと思っている場合以外は、論理的思考は使わない方が良い。同様に、他人のブログの論理的な矛盾を指摘することも無益であろう。
論理的思考は、自分が論理的に物事を考えるときに使うものだ。
前提がはっきりしているとき
論理の出発点は、前提である。この前提は論理的である必要は無いが、はっきりしている必要がある。例えば、「金持ちになりたい」という前提で論理思考を展開することを考える。この「金持ちになりたい」は論理ではなく個人的な希望であるが、論理の前提となり得る。ただし、「金持ち」とは何かがはっきりしていないため、これを出発点にして論理的思考を行っても、無益である。「1000万円以上の預金をもちたい」とか、「年収700万円以上が欲しい」とか、明確な出発点がないときに論理的思考を行っても、出てくる結果は「一生懸命がんばる」とか「まぁ無理」とか大したものにはならなり。
論理で解決する問題を考えるとき
これも当たり前なのだけど、無視されることが多い条件である。例えば、イノベーションを起こすための手法を論理的思考で導くのは無理である。イノベーションを、従来の延長ではなく不連続な社会インパクトを与えるものと定義される。一方で、論理的思考は、筋の通った(つまり現状の延長上の)解をみつけるものであるため、イノベーションとは相性がとても悪い。イノベーションを起こす手法を考えるには、wikipedia:水平思考等の別の思考方法が必要となる。
相手と基本的な価値観を共有しているとき
プラトンの対話編に登場するソクラテスとクリトンの間の脱獄可否を巡る問答がある。クリトンは既に死刑判決の確定したソクラテスに対して脱獄を勧める。これに対してソクラテスは有名な「悪法もまた法なり」という論理でクリトンに対抗した。つまり、「私(ソクラテス)に対する死刑判決は悪法かもしれないが、悪法もまた法である。従って私はこれに従わなければならない」という論理である。
この論理でクリトンが納得するのは、クリトンが「法は守らなければならない」という価値観をソクラテスと共有しているためである。逆に言うと、価値観を共有しない相手と論理的思考で話を展開しても無益である(いわゆる論理が噛み合ない状況になる)。
論理的思考で成功するか?
(「論理的思考で成功するか?」という問いは、「成功」とは何かがはっきりしないため、論理的思考では考えられないという点は、脇に置いておく。)
論理的思考を用いても正しい答えにたどり着くわけではない。例えば、上のプラトンの例では、「悪法もまた法なり」という論理のもとにプラトンは死刑を受け入れた。このように論理は各人の価値観に基づいており、論理的思考の導く答えも、その価値観次第である。
つまり、論理的思考とは唯一の答えを出す方法ではない。そのため、成功する場合もあれば、成功しない場合もあるというのが本当のところである。
まとめ
論理的思考には、使い所というものがある。また、現代社会では、個々人の価値観は多様化しており、論理はその価値観に根ざすため、論理的思考の導く答えも人それぞれである。このように考えると、論理的思考は万能ツールではないことが分かる。むしろ論理的思考をどのような場面で用いるか判断する見識が重要である。
- 作者: 照屋華子,岡田恵子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
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