風立ちぬ、いざ生きめやも
あまりに有名な小説「風立ちぬ」(堀辰雄)を読んだ。
以下の部分が特に好き。死の病の恋人に「ずっと後になって思い出すようなことがあったら、、」と話す言葉は、とても切ない。
「何をそんなに考えているの?」私の背後から節子がとうとう口を切った。
「私達がずっと後になってね、今の私達の生活を思い出すようなことがあったら、それがどんなに美しいだろうと思っていたんだ」
「本当にそうかも知れないわね」彼女はそう私に同意するのがさも愉たのしいかのように応じた。
それからまた私達はしばらく無言のまま、再び同じ風景に見入っていた。が、そのうちに私は不意になんだか、こうやってうっとりと見入っているのが自分であるような自分でないような、変に茫漠ぼうばくとした、取りとめのない、そしてそれが何んとなく苦しいような感じさえして来た。そのとき私は自分の背後で深い息のようなものを聞いたような気がした。が、それがまた自分のだったような気もされた。私はそれを確かめでもするように、彼女の方を振り向いた。
「そんなにいまの……」そういう私をじっと見返しながら、彼女はすこし嗄しゃがれた声で言いかけた。が、それを言いかけたなり、すこし躊躇ためらっていたようだったが、それから急にいままでとは異った打棄うっちゃるような調子で、「そんなにいつまでも生きて居られたらいいわね」と言い足した。
ジブリ映画の「風立ちぬ」よりもストーリはシンプルであり、その分表現を味わうことができる。
- 作者: 堀辰雄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1951/01/29
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