kotaの雑記帳

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ワインづくりの思想

 テロワールとは、銘醸地神話のことである。本書は、そう主張している。
 
 ワインには、「テロワール」という言葉が付きまとう。wikipediaからその意味を調べると、

テロワール
葡萄園(葡萄畑)の土壌、地形、気候、風土など、ブドウの生育環境を総称してテロワール(仏: terroir)という。
ブドウは、比較的痩せた排水と保水が共によい礫を含んだ重い土壌を好み、生育期に降雨が少ない土地で良好な果実が得られる。世界各地のブドウ生産地では、垣根仕立て、棒仕立てが多いが、日本では多雨多湿な気候に適する棚仕立てとし、木を大きく育てる。

wikipedia:葡萄園より
 
 ワインの業界は、このwikipediaよりももっと深い意味を、この「テロワール」という言葉に込める。すなわち、その土地(ブドウ畑とそのワイナリー)の個性、いやもっと変えがたいもの、その土地の素質といった意味を、この言葉に込める。
 フランスのブルゴーニュボルドーのワインは、なぜ美味いのか?「テロワール」のおかげだ。 といったように、ワインの味について、その理由を「テロワール」に求める。
 
 これは本当だろうか?
 昔は、各地で育てられるブドウの品種が異なっていた。ブルゴーニュボルドーでは、カベルネシャルドネなどのいわゆる美味しいワインの原料となるブドウの品種が育てられていた。そのため、この地域のワインは美味かった。
 ワイン造りの技術や知識が深まるにつれて、カリフォルニア・オーストラリア・チリなどの様々な地域で、これらの美味しいワインの原料となるブドウが育てられるようになった。また、ワイン造りの技法も、ブルゴーニュボルドーでも温度管理や酵母を厳密に管理するようになり、新しい地域(カリフォルニア・オーストラリア・チリなど)でも同じ技法でワインを作っている。ワイン造りのいわば杜氏(技師)も、フランスからオーストラリアなどに移動している。
 つまり、ワインの世界はフラット化(地域差が無くなっている)している。技術の進歩は、最適なワイン造りを可能にし、結果各地のワイナリーはその構成を失った。
 このような現代において、テロワールとは銘醸地神話である。「ブルゴーニュのワインは何故美味いのか?それはブルゴーニュテロワールのためである。」こういった神話としてテロワールという言葉が使われている。
 
 本書を読んで面白いのは、各地のワイナリーが個性を失い、テロワールが単なる神話に堕ちている現代において、工業的な管理をやめるワイナリーが出始めているということ。技術の先の味に到達するには、技術を否定する必要があるということだろう。

ワインづくりの思想 比較ワイン文化考 (麻井宇介セレクション4冊セット)

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