日本の労働生産性が低いニュースを立て続けに二つ見ました。一つは全然ダメ。もう一つはおぉなるほどと唸るものでした。あまりに対照的だったので、比較しておきます。
予備知識
回りくどいですが、まず予備知識を簡単に整理しておきます。
統計の海外比較ってどうなのよ
統計の常識ですが、日本と海外を比べるのはリスキーです。
日本と海外では文化・社会構造など前提になるものが異なるため、統計値を容易に比較することはできません。例えば、サウジアラビアのような石油埋蔵量に恵まれた国と日本と労働生産性を比べても意味はありません。石油資源に恵まれた国の方が高い労働生産性になるに決まっています。
労働生産性って高い方がいいの?
「労働生産性」という言葉の響きのせいか、これは高い方が良いと思われがちです。果たして本当にそうでしょうか?そもそも労働生産性とは次のように計算します。
上の式から、簡単には従業員の数を減らすと労働生産性は上がります。つまり、失業率を上げれば労働生産性は上がります。僕たちはそんな社会を望んでいるのでしょうか?
労働生産性のダメなニュース
さて、労働生産性に関するダメなニュースを見ていきましょう。
上のNHKニュースでは、アメリカと日本を比較しているという点でダメだなぁっという感じなのですが、さらにその解説として以下の様に書いてあります。
高品質なサービスが安い価格で提供されていることなどが理由だということです。
このような解説をするのは、「低品質なサービスが高い価格で提供される」ように日本がなれば良いと言っているようなものです。労働生産性は高い方が良いというステレオタイプな思い込みがNHKにあるように思います。
労働生産性の良いニュース
一方、良いニュースだと思ったのは、日経新聞のもので、2018年4月8日の朝刊「生産性高まらぬ雇用増 低賃金のサービス業へ集中/成長分野へシフト進まず」です。
日本では、製造業・建設業の労働生産性が高く、サービス業の労働生産性が低い。その状況で、就業者の数は製造業・建設業が減り、サービス業は増えている。この状況に警鐘を鳴らすものです。
その製造業は12~16年に就業者が28万人減った。就業者全体でみると、いま起こっているのは製造業、建設業からサービス業への労働力のシフトだ。ただ労働移動先の業種のほうが生産性が低く、しかも下がり続けている点が高度成長期の労働移動とは異なる。
この記事を読むと、以下のことを推測できます。
こうやって具体的にデータを見せられると、NHKのニュースの「高品質なサービスが安い価格で提供されている」という解説にも疑問が生じます。
- 「高品質なサービスが安い価格で提供されている」のは具体的にはどの会社のことだろうか?(介護サービスじゃないよね、、)
- その会社は、日本全体の統計に影響するほど大人数の従業員を抱えているのだろうか?
- サービス業の効率を上げて就業者を減らしたとして、その分の就業者はどこにいくのか?
このように考えると、日本は労働生産性が低いというニュースは一見分かりやすいが、その裏には難しい本質があるように感じます。