ファシズムに関するネットの情報は、貧相でかつ混乱している。ファシズムの定義が定まっていないことと、侮蔑語として「ファシズム」と言う言葉が使われがちなためだ。誰かを批判したいとき「ファシズム」と言う人が多かったため、「ファシズム」の範囲が曖昧に広がっている。
そんな分かりにくいファシズムをなぜ学ぶのか?著者の佐藤優は、
ためだと言う。
本書の中では、ファシズムの誕生の経緯を丁寧に解説し、さらにファシズムが内在する論理を解説している。
ファシズムとは何か?シンプルな答えを求める人には、ファシズムの複雑さは理解できない。その複雑さ故に、誕生の経緯や内在する論理の解説を通して多面的にファシズムを説明する。一つの視点でファシズムを切り取って理解することは、その全体像を分からなくさせる。「ファシズムとは全体主義」のことである、こんな一面的な理解による誤解を避けるため、敢えて多面的にファシズムを説明している。
全体主義とはファシズムの大きな特徴であるが、それだけでは理解不足である。ファシズムは全体をどう定義するのか?全体を支える国民の範囲はどう定義されているのか?なぜその定義を行うのか?多面的な理解が必要である。
本書の中で著者は、平易な言葉でこれらを説明していく。
「一人は国家のために、国家は一人のために」とすればファシズムのスローガンになります。
全体主義と言う言葉からは、「一人は国家のために」だけを取り出している。ファシズムはさらに「国家は一人のために」政治を行うのである。このため、下流の民衆のための福祉政策が行われる。(魅力的な政策に思えるでしょ?)
イタリアのために頑張る人がイタリア国民
国のために頑張る人が国民だとファシズムは考える。国のために成果を出すのではない、頑張る人が国民であることに注意。それゆえ、民族にはこだわらない。
このように本書は平易な言葉でファシズムを多面的に解説している。
感想
「お国のため」と言う言葉で総火の玉となって日本人は戦時中頑張ったという。それに対して日本国政府は国民に対して何をしたのだろう?資本家と結びついて植民地獲得を目指していた。この点で戦時中の日本はファシズムではないと言える。
ファシズムの怖さは、全体の利害が個々人の利害と一致しているかについて思考停止させ、全体のために頑張らせるムードを作ってしまうところにある。