kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



「ライカとモノクロの日々」(内田ユキオ):写真家の思考のレンズが垣間見える

 「これ、スタンバイミーで森を行く3人みたいでカッコ良くないですか?」彼は自分の撮ったスナップ写真を聴衆に見せながら言った。その写真には、男が3人横に並んで一本道を進んでいる。

 彼は写真家内田ユキオ。富士フィルムトークショーで、新製品カメラで撮影した写真を見せながら、そのカメラが如何に良いかを説明していた。僕はその様子を見て、この人は映画のシーンをよく見ている人なんだと思った。

 それからカメラ雑誌で彼の記事を見かけると読むようになった。彼の記事は、昔のカメラマンのこれこれの構図を参考に写真を撮ったと書いていることが多い。

 

 この「ライカとモノクロの日々」は、内田ユキオの写真とエッセイである。

「昔々、といってもたかだか14,5年前のことなのだけれど」というのは村上春樹さんの小説の書き出しで、僕はこれが大好きだ。その頃のことをはるか昔に感じる気持ちと、それでも実際はそう遠い過去のことでもないのだという事実と、そのあいだで自分の心の置き場所を決めかねている心境を見事に凝縮していると思う。

(「カメラは変わり、時代も変わった」(ライカとモノクロの日々)より)

 

 この書き出しが、僕は大好きだ。文章の表現をくみ取れる人なんだと思う。微妙な表現の違いが与える印象の差、そんなものを意識しながら本を読む人なんだろう。

 

 「この声で歌う」では、音楽家を撮影する機会を得た内田ユキオがその撮影の合間に音楽家と話をする。優れたボーカリストは特徴のある声を持っていて、どれだけ憧れても他人の声と同じ声を出すことはできない。こんな話を音楽家から聞く。

 彼が話すのを聞きながら、写真で似たようなものがあるとすれば何だろうと考えて、思い当たることがあった。

「プリントのトーンに似ている」

 (「この声で歌う」(ライカとモノクロの日々」より)

 

 aというものを、違う分野のBで似たものは何かと考える。これは物事を抽象化して本質を理解する定番のやり方で、内田ユキオの場合Bはカメラだ。こうやって彼はカメラを通して世界を見ているのだと分かる。

 

ライカとモノクロの日々 エイ文庫

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