コピーライターの岡本欣也さんの著書『「売り言葉」と「買い言葉」』は、長年、言葉を磨きぬいて広告コピーを作ってきた著者が、そのテクニックを解説した本です。「売り言葉」も「買い言葉」も、辞書に載っている意味とは異なるユニークな定義がされて、解説がなされます。
この本を読むことで、広告コピーだけでなく、SNS、メール、ビジネス文書など、あらゆる文章を魅力的にするヒントが見つかります。
伝える目的
相手に伝えるために言葉を練るのですが、伝える目的は何でしょう?それは、人に行動してもらうことです。広告では物を買ってもらうことが目的ですし、ビジネス文章では自分のアイデアや企画を通すことが目的です。SNSではデートの誘いにOKと言ってもらうのが目的かもしれません。
文章を書く前に、伝える相手にどう動いて欲しいかを思い浮かべるのが、最大のコツです。
「売り言葉」と「買い言葉」
著者は、広告コピーを「売り言葉」と「買い言葉」に分けて、それぞれが相手の心にどう響くか分析しています。
「売り言葉」とは、売り手の視点から商品やサービスを直接的にアピールする言葉であり、「男は黙ってサッポロビール」や「ゴホン!といえば龍角散」のようなキャッチフレーズがその例です。これらは、製品の特徴や利点を強調し、消費者に購入を促すために設計されています。
一方で、「買い言葉」は、消費者の視点から、共感や感情を呼び起こす言葉です。「くうねるあそぶ(日産セフィーロ)」や「たばこを持つ手は、子供の顔の高さだった(JTのマナー広告)」などが、消費者の日常生活や価値観に訴えかける良い例です。
気になる人を食事に誘う際に、「お願いします、今度食事に行ってください」というのは「売り言葉」で、相手がイタリア料理が好きな場合に「評判のイタリアレストランができたんだけど、今度行かない?」というのは「買い言葉」になるでしょう。
長文の書き方
著者は、長文を書く際のテクニックにも言及しており、特に冒頭の文章と最後のフレーズの重要さを述べています。そして、以下の手順で文章を書くことを勧めています。
- 文章全体で、大切なポイントや中心となるポイントを箇条書きにします
- 次に読者の注意を引く冒頭の文章を考えます。冒頭の文章は、一呼吸で読める長さで、誰が読んでもなじみのある言葉で構成するのが基本です。
- そして、最後のフレーズを考えます。文章の内容は上記1の箇条書きがあるので最後のフレーズに含めなくても大丈夫です。しかし、これは読後感を左右する大切な部分です。最後まで読んでよかったと思ってもらえる印象的なフレーズを考えましょう。
ここまで書けたら、どんどん文章を練っていきます。
感想
3つの点が面白く感じました。
- 伝える目的を、相手を動かすことと明確にしていること
- 伝える文章を、「売り言葉」と「買い言葉」の二つの視点で分類していること
- 長文を書く手順を示していること
特に、1番目は忘れがちです。私の場合、相手に分かってもらおうと分かりやすい文章を書こうと考えがちですが、さらに何のために分かってもらうかを考えていこうと思います。
あとがき
本記事では、具体的なテクニックについては省きましたが、例えば以下のように詳細テクニックも満載です。
- 数字にすると説得力が上がる:「駅からすぐ」ではなく「駅から徒歩3分」のように。別の例として「英語が話せると10億人と話せる」
- 何かと比較する:例えば、「地球にもお財布にも優しい。ガソリン車とは比べ物にならない走行性能と静寂性」(格安電気自動車のコピー)
- 言葉を繰り返す:「モルツ、モルツ、モルツ」など
- ダジャレを使う:「こんちくしょう、どうしましょう、花粉症」
- ちょっと考えれば分かる「?」を作る:「野菜を見ると想像するもの」(マヨネーズの広告)
- 詩的な物語を感じる表現:「恋は、遠い日の花火ではない」
- 静かな表現を使う:「とっても簡単!」といった派手な表現ではなく、「あ、大人になってる」のような「あ、」とか「まぁ、」、「だなぁ」などを使った表現
- 感覚に直接訴える:「ミーン、ミーン、ミーン」など、視覚・聴覚・味覚に訴える
本書の具体的なテクニックの部分を読むとイメージが湧き、良く分かります。
(冒頭の画像はAI (Microsoft Designer)で生成 ∙ 2024年9月5日 午後3:36)