kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



「舟を編む」(三浦しをん):言葉というツールで世間を渡るための辞書は舟である

 

 三浦しをんの「舟を編む」を読んだ感想を記す。

 この小説は、映画やアニメにもなったので知っている人は多いだろう。作者の三浦しをんは、その道のプロの日常をモチーフに小説をよく書いている。「神去なあなあ日常」では林業に従事者の生活を描き、「風が強く吹いている」では箱根駅伝にかける大学陸上部員の様子を描いている。そして、この「舟を編む」は、国語辞典の編集者を描いている。

 

 思考は言語によって形成される。

 考えるということは、言葉を操ることで行われる、と言う意味だ。この言葉を、私は中学生くらいの時に知った。なるほど、確かに、考えているとき頭の中は言葉でいっぱいだと思ったものだ。正しく緻密に考えるには、個々の言葉のニュアンスを使い分けることができた方が良い。

 

 本書の主人公は、とある出版社の辞書編集部員である馬締 光也。不器用ながら、辞書編纂に没頭する。その妻、林 香具矢は、板前であり、彼女もまた不器用な職人気質の性格。

 本書を読んで印象に残った個所を2か所記しておこう。

 一つ目は、香具矢が語る言葉の大切さについて。

「私は十代から板前修業の道に入りましたが、馬締が言うには、記憶とは言葉なのだそうです。香りや味や音をきっかけに、古い記憶が呼び起こされることがありますが、それはすなわち、曖昧なまま眠っていたものを言語化するということです。」

 洗い物をする手を休めず、香具矢はつづけた。「おいしい料理を食べた時、いかに味を言語化しておきくしておけるか。板前に撮って大事な能力とは、そういうことなのだと、辞書づくりに没頭する馬締を見て気づかされました」

 「記憶とは言語なのだ」の部分にグッときます。

 

 二つ目は、辞書作りの大変さを物語る部分。約15年をかけて一冊の辞書「大渡海」を完成させ、その祝賀会の終盤で、辞書作りの先輩 荒木から馬締が言われた言葉。

「まじめ君。明日から早速『大渡海』の改定作業をはじめるぞ」

 言葉は生きている。日々新しい言葉が生まれ、古い言葉が廃れる。また、言葉のニュアンスも日々変化する。その変化に辞書が対応するには改定作業が欠かせない。言葉は生き物であることを、辞書の編集者が良く知っていることを印象付ける部分だ。

 

まとめ

 国語辞典の編集と言う作業がいかに時間がかかる地道なものであるかを感じられる小説だ。そして、その編集に関わるものがどれほどの情熱をもって、辞書と向き合っているかが分かる。