むかしむかし、まだプロ野球がスポーツ観戦の王様だった頃、大阪は熱狂的な阪神ファンで溢れていた。飲み屋に行くと、TVがついていて阪神戦を映していた。スポーツバーとかそんな洒落たものではなくて、小さな町の飲み屋さんがブラウン管のTVを置いてあるそんな場所。
阪神のバッターがボテボテのゴロを打ってアウトになると、おじさんたちは選手に向かって技術論をぶったものだ。”もっとひきつけて打たなアカン”、”内角はもっとコンパクトに腕をたたんで振らんな、打たれへん”、”アカンアカン、バックスイングが大きすぎるんや”。
オジサンたちが、野球なんてまともにやっていないだろうことは、その体型をみれば一目瞭然だ。でも試合が進むにつれて、オジサンたちの野球技術論議はヒートアップしていく。そのうち、”ワシやったら、あれは打るのになぁ”などと言い始める。そして試合が終わる頃には、”やっぱりアカンかったか、ワシの言うた通りやろ”と、満足げにしている。
あれから何十年も経って、プロ野球は娯楽の王様ではなくなった。
今は新型コロナウィルスをネタに、お気に入りの有名人をネタに”アカンアカン”とSNSで得意げに言っているオジサンたちを見かける。論評の対象は野球から代わり、場所が飲み屋からSNSに変わった。でも相変わらず”アカンアカン、それでは打たれへん”と今日も言っている。