kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



マイクロファイナンス、そしてソーシャルビジネス

まずクイズから、旅人が腹を減らして池のそばで倒れていたとして、あなたは魚を釣って旅人にその魚を与えるだろうか?それとも旅人に魚の釣り方を教えるだろうか?

マイクロファイナンスの本質は、この問いにある。

堅い定義をすると、マイクロファイナンスとは、社会的意義を意識した事業で、持続可能な価格で在野サービスを提供することによって事業コストや投資資源を回収する非営利事業である。

マイクロファイナンスとは以前マイクロクレジットと呼ばれていたもので、近年は貸付業務以外にも事業範囲を拡大したことから、マイクロファイナンスと名称が変わってきたものである。マイクロファイナンスの事例としてはグラミン銀行が有名であるが、簡単に説明しておく。

通常の銀行の貸付業務では、企業利益最大化のために、業務コスト最小化とリターン最大化を狙っている。このため、貸倒れリスクを最小化するために貸付先に担保あるいは一定以上の収入を求める。また、業務コスト削減のため小口貸付よりも大口貸付を好む。

貧困に苦しむ人は、少しの手助けがあればその貧困から抜け出せる可能性があるのに、通常の銀行は貸倒リスクを恐れ、小口貸付に伴うコスト増を嫌い、彼らには融資を行わない。一方、マイクロファイナンスは通常の銀行が対象としない貧困に苦しむ人々を貸付の対象として選ぶ。マイクロファイナンスでは、貸倒リスクを減らすためのコストをかけるところが特徴である。具体的には、融資する人の熱意や目的を入念に審査し、貸付後も積極的に彼らをバックアップする。このようにコストをかけることで、事業持続可能な利益を維持できている。

さて、本書ではまず貧困とは何であるかの議論が行われ、貧困の定義事態が難しいことを示している。同時に、貧困は個人の責任の問題であるのか、それとも社会の問題であるのかの議論を行い、誰でもその状況に置かれれば貧困に陥るという社会的問題であると意見を述べている。

本人のやる気・能力・働く機会が揃って、貧困から抜け出すことが出来る。寄付等の慈善事業や公的保護で、能力・働く機会を提供することは可能であるが、その支出の大きさ故に事業が継続可能でないところに問題が生じる。それに対して、マイクロファイナンスでは、事業を持続可能とするだけの利益確保と、働く能力・機会の提供の二つを両立するという点で画期的である。

さて、このような一般化をすれば、マイクロファイナンスの仕組みがファイナンス事業以外でも成立することは容易に推測できる。例えば、教育などの分野でもこの枠組みでの事業を行うことは可能かもしれない。こうしたファイナンス以外に拡張した概念を、著者はソーシャルビジネスと呼んでいる。

最初のクイズに戻ると、ソーシャルビジネスとは、腹を減らした旅人に魚の釣り方を教えて利益を得るビジネスなのである。利益を得るからこその後も他の旅人に魚の釣り方を教え続けることが可能なのだ。

マイクロファイナンス―貧困と闘う「驚異の金融」 (中公新書)

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