なんだかやる気が出ない、無気力である、うつ症状がある等の原因は、無力感を知らず知らずに学習してしまうことにある。無力感を学習するとは、どういうことだろうか? 「無気力なのにはワケがある 心理学が導く克服のヒント」(大芦治 著)は、学習性無力感に関する研究成果をまとめた本である。無力感に関して、その発症メカニズムについて記した珍しい本である。
そもそも、どうして無気力になるのだろうか?上司から叱責される日々が続く、あるいは人間関係がうまくいかない等、ストレスの多い日々が続くと無気力になるといったイメージが一般にある。実際、これは、心理学者達の実験により確かめられている。セリグマンなどの心理学者の実験によると、無気力を学習することで、無気力状態になるという。人は、コントロール不可能な困難な状態を経験すると、無力感を学習する。そして、将来もコントロールできないことが起こると思うことで、学習性無力感(うつ状態)を感じる。例えば、恋人とうまくいかない状態(コントロールできない困難な状態)が続くと、「あぁもうダメかもしれないなぁ」などと無力感を感じる。そして、恋人と別れる際に、「こんな自分では、もう一生・誰とも付き合えないかもなぁ」と感じる(将来の予想)。これが無力感を学習することである。
さて、この本の良いところを二つ記す。
一つ目は、目標設定とやる気の関係について記していること。目標には、遂行目標と学習目標の2種類ある。遂行目標とは、良い成績をとることで競争に勝つことや、社会的な評価や報酬を得ること等の目標をいう。例えば、学校の成績で10番内に入るとか、受験勉強を頑張って東京大学に合格するといった目標である。一方、学習目標とは、学習によって自分の知識を増やし、技能や見識を高めることそのものを目標と設定するものである。
遂行目標を持つ人は、とにかく他人より能力が優っていることを示すために必死に頑張る。その結果、良い成績を取れれば良いが、他人との争いに負けたときは学習性無力感に陥る。これは、競争的な社会は、学習性無力感に陥りやすいことを意味する。
アメリカ型の成果主義的な評価制度は、遂行目標に基づく。これは、成果が出ているときはやる気が出るものの、成果が出なくなると無気力な状態に陥りやすい。日本の会社において、この成果主義的評価制度を最近導入しつつあることと、職場でのメンタルヘルスが問題になっていることは無関係ではあるまい。
二つ目の良いところは、学習性無力感(うつ状態)に陥るメカニズムにおいて、困難な事態をコントロール不可能な事態とみなすかどうかには個人差があり、それは困難の原因帰属(原因がどこにあると考えるか)が大きく影響することを、示していること。原因帰属は、3つの次元で整理できる。
- 内的要因(自分が原因) or 外的要因(自分以外が原因)
- 一時的な要因(たまたまこのときだけか) or 持続的な要因(ずっと続くか)
- 特殊要因(それだけか) or 全般的要因(それに類似する全てか)
例えば、数学のテストの点数が悪かったとき、問題が難しすぎて(外的要因)で、たまたま準備不足(一時的な要因)で、数学だけの問題(特殊要因)であると考える人は、学習性無力感(うつ状態)になりづらい。逆に、それを自分の能力不足(内的要因)で、今後一生数学が得意にならず(持続的な要因)で、国語や英語などの他の科目も点数が悪いと思う(全般的要因)と考える人は、学習性無力感(うつ状態)に陥りやすい。この例は極端に聞こえるかもしれないが、恋人に振られたときに、「こんな自分では、もう一生・誰とも付き合えないかもなぁ」と思う場合はあるだろう。これなどは、振られた原因を、内的要因(こんな自分)で、持続的要因(一生)、全般的要因(誰とも)に結びつけているのだ。
ただし、この原因帰属のさせ方は、個人差があり、トレーニングにより変化させることができる。
まとめ
つらい状況に遭い、それを自分の努力では変えれない時がある。それが一時的であれ、人は将来もそういうことが起こると予想し、無気力感を身につける。この無気力感は、つらい状況の原因の捉え方(原因帰属)による。この原因帰属はは無意識に行われる。これは「心の癖」と呼ばれることもある。心の癖は、トレーニングにより変えることができる。例えば、書籍「いやな気分よ、さようなら」、「四つの約束」、「しない生活 煩悩を静める108のお稽古」は、この心の癖を変えるトレーニングについて記している。
無気力なのにはワケがある 心理学が導く克服のヒント (NHK出版新書)
- 作者: 大芦治
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2013/12/18
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る