「何を言うか」よりも「だれが言うか」が雄弁な時がある。例えば、同じニュースでも、どのメディアが言うかで、ぐっと印象は変わる。
ついに宇宙人とコンタクト(日本経済新聞)
ついに宇宙人とコンタクト(東京スポーツ)
いかがだろうか?二つは同じことを言っている。でも違う意味に見えてしまう。
こんな書き出しから始まる本書は、コミュニケーション術の教科書です。
コミュニケーション術の内容を教えるものとしてよくまとまっており、基礎5つに分けて説明しています。そして、それらは「ついに宇宙人とコンタクト」と同じように分かりやすい例が豊富です。
- 自分のメディア力を上げる
- 相手にとっての意味を考える
- 自分が一番言いたいことをはっきりさせる
- 意見の理由を説明する
- 自分の根っこの想いにウソをつかない
この5つでコミュニケーション術は網羅されています。本書以外の本でもこれらが全てです。
この本が、他とは違う点は2つ。
- コミュニケーションの目的を、「人と通じ合う」こととしている
- 問いを重視している。
コミュニケーションの目的は?
そもそもコミュニケーションの目的は何でしょう?
「人を動かす」ことを目的とする本が多いように思います。自分の意見を通すために言葉を選び相手を誘導する。そのために、相手の関心を見抜きそれに向かてエサをまくテクニックが書かれている本もあります。
本書では、「他人と通じ合う」ことをコミュニケーションの目的としています。
本書を踏み台に、人と通じ合う技術を磨こうとするあなたに、まずたずねたい。
技術をつけて、どうなりたいか?人や社会とどうつながっていきたいか?
あるう人は「交渉で常に自分が勝てるようになりたい」というかもしれない。またある人は「人間関係で傷つかないようになりたい」と言うかもしれない。あなたの目指すコミュニケーションのゴールは何だろう?
(中略)
自分の想いで人と通じ合う、それが私のコミュニケーションのゴールだ。
私自身は、「人を動かす」「人と通じ合う」そのどちらもケースバイケースで使い分けたいと思ってます。「人と通じ合う」だけでは世の中やっていけない。でも、「人と通じ合えない生活はあまりにも寂しい。
問いの力
「自分の想いで人と通じ合う」ことを目標とするなら、まず「自分の想い」つまり自分の考え、じぶんだけの考えをはっきりさせなければいけません。
意外かもしれませんが、人は感じたことをはっきり言葉にできるまで考えていません。感じただけでなんとなくやり過ごしていることが多い。つい一般論というふわふわした状態で思考を止めてしまう。
増税のニュースを聞くと、それは生活が苦しくなって政府はいけないと思い、社会保障削減のニュースを聞くと、お年寄りが可愛そうと思う。誰もそれに反対はしないが、そこにあなたの考えはない。増税はいくらまで許せて、社会福祉削減はいくらまで許せるのか、具体的に自分なりの数字を持つのが、自分の考えを持つということだ。
(1)問いの力 その1:考える技術として
考えることは、良い問いをみつけることです。
問題が与えられたら、私たちはすぐ、「答え」を探そうとする。暗記と応用で正解を出すことに慣れているからだ。でも、正解のない問題を自分で考えいたいなら、まず「問い」を探すことだ。
正解のない問題、学校を卒業するとほとんどが正解のない問題です。就職する会社は、ベンチャーが良いか、大企業が良いか。家は、持ち家がいいか、借家がいいか。正解はありません。
まず問いありきです。
自分は何を目指すのか?選択肢は何と何があるのか?それぞれを比較する基準は何か?いつまでにしたいのか? すべて問いをきっかけに考えることができます。
問いを使って考える技術については、『「言葉にできる」は武器になる』(梅田悟司)も同じことを言っています。問いを繰り返して、自分だけの考えを明確にするとよいでしょう。
(2)問いの力 その2:相手の話を問いで聞く
相手と話をしていて話がかみ合わないとき、原因は論点のズレです。
恋人が「今度の出張はどこ行くの?」と聞かれたとき
あなた「アメリカ」
恋人「遠いね」
あなた「アメリカだからね」
こんな会話になったとしたら、論点がズレているかもしれません。恋人は
場所を聞いているのではなく、本当はあなたがいつ帰ってくるのか知りたいのだとしたら、上の会話は噛み合っていません。
誰かと話をするとき、「なぜ相手はこう言うのか?」と問いの力を使うと、論点を外さない。相手の言葉がそのまま言いたいことではないことは多々あります。「なぜこう言うのか?」この問いは武器になる。
(3)問いの力 その3:相手との論点を共有する
誰かと話をするとき、意見が合わないときがあります。そんな時でも、問いなら共有できます。
仕事がうまくいかないとき、「客がわがままだ」、「商品が悪い」様々なことを部内で議論するかもしれない。このとき上司から「商品が悪くても仕方ないだろう、頑張って売れ」と言われると議論はすれ違う。
「どうやったら売れるのか?」「この商品を買ってくれる客はどんなカスタマセグメントなのか?」と問いにすれば、相手と共有できる。共有できればそれをキッカケに噛み合った議論ができます。
まとめ
「あなたの話はなぜ通じないか」(山田ズーニー)は、コミュニケーション術の教科書です。
類似本が、コミュニケーションの目的を「人を動かす」ことに置くのに対して、本書は「人と通じ合う」ことを目的に置いています。
「人と通じ合う」ためには、まず自分だけの考えをはっきりさせる必要があり、そのために問いの力を説明しています。問いには、(1)自分の考えをはっきりさせ、(2)相手の話を正しく聞き、(3)相手との論点を共有する、効果がある。
おまけ
この本では問いの力が強調されています。
一方でよい問いを立てるのは、いきなりは難しい。そこで良い問いを立てるトレーニング方法も記されています。その中で私が気に入ったのは、「問い発見力を鍛えるーー問いスクラップ」という方法です。
ネットニュースや新聞を読んて面白い記事を見つけたとき、その記事がどんな問いに基づいて書かれたか考えるというものです。
- 面白いと思う記事を見つける
- その面白い考えは、どういう「問い」から出てきたのか、文中に書いてあればそれをみつける
- 文中に「問い」が書かれていなければ「意見」から逆算して問いを割り出す
簡単な例を引用します。
例えば、「本当のことをしゃべるよりも、私はウソをつく方が恥ずかしい。ウソをついてる方が、本当の自分が出るから」(米原万里「言葉の戦争と平和」より要旨抜粋)という意見に目が留まったとしたら、その裏に、「ウソは本心を隠すものと思われているが、本当か?」「本当とウソ、どちらを言うときが、より本当の自分が出るか?」という筆者の問題意識が読み取れる。
これは、簡単にできて良い方です。やってみてはどうでしょう?