面白かった。
仏教に関する話は、スピリチュアルなファンタジーな話が多いのだけど、著者の佐々木閑さんは仏学者だけあって学問的な検討結果に基づいて客観的に話を進めていく。
お釈迦様が開いた仏教には多くの宗派があり、それぞれの教えは大きく異なっている。本書では、般若経、法華経、浄土教など大乗仏教を中心にそれぞれに共通点と違いを分かりやすく解説している。
もともとお釈迦様は、人生の苦しさを取り除くための方法を探していた。当時のインドでは、輪廻転生(人間は死んだあと、生まれ変わりを繰り返す)が信じられていた。一切皆苦(人生のすべてのものは苦しみである)とみなした釈迦は、輪廻転生により死んだ後も苦しみが続くと考えた。その苦しみは執着から生まれ、執着を手放すことで苦しみから解放される。そのための修行により悟りを得て涅槃の境地に到達し、輪廻転生も終える(解脱)と考えた。
当時のお釈迦様の教えのポイントは
- 修行の目的は悟りを得ること
- 悟りを得るためには、出家が必要
- 誰か他人や仏や神様が自分を救ってくれるのではなく、自分の努力(修行)で苦しみから解放される
一方で、後に起こる大乗仏教では、出家しなくても悟りを得ることができることになっていたり(般若経、法華経)、修行すら不要で阿弥陀如来により極楽浄土にいける(他力本願思想)となっていたり(浄土教)して、釈迦の教えとは全然異なる。
しかしながら、各宗派ともに各々の教えは釈迦の教えの直系であるという、理屈を持っている。これがあるからこそ、各宗派は今まで生き残ってこれた。
例えば、浄土教では、仏はブッダ(釈迦)以外にも多くおり、その中の阿弥陀如来は悟りを開く修行の途中で、人を極楽浄土に導くことを誓ったとしている。そのため、阿弥陀如来は、念仏を唱える人を積極的に救うものと考えている。
本書では、さまざまな宗派について、釈迦の教えを拡張していったかについて解説している。その背景にある考え方には一定の理屈が通っていることを示している。
まとめ
日本人のほとんどは無宗教だと主張するが、その価値観や文化は仏教から大きな影響を受けている。
一方で、仏教には多くの宗派があり、その教えも様々。私たちの考え方は、それらから一部をつまんでパッチワークのようになっている。例えば、普段の生活で良いことをすると何か良いことが帰ってくると思っていたり(因果応報)、仏様に手を合わせると幸せになると思っていたりする。本書を読むと、それぞれの宗派からどのような影響を受けているのか理解することができる。
また、科学の発達した現代は、宗教の力が衰えている。しかし、科学では解決できない問題、死・どう死ぬべきか・どう生きるべきかなどは宗教の問題として残る。各宗派の教えから有用な部分を摘まんで、これらの問題を解決できるならばそれで解決すれば良い。現代も、生きることは苦しく、科学ではこの苦しみは取り除けない。仏教の多様な教えのなかから自分の苦しみに応じたものを選び使うようになっていくのかもしれない。