kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



知的複眼思考法

 知的複眼思考法は、情報の達人になるための本である。
 スマートフォンのおかげで、我々は常に情報にさらされている。その情報解釈の煩雑さのため、分かりやすい情報を求めている。企業はブラックなのか否か、商品はお得か否か、原発は安全か否か等の2分法の情報が人気だ。2分法は分かりやすいが、真実ではない。情報の達人は、分かりやすさの裏に隠された真実を掘り起こす。
 情報の発信者は、意図してセンセーショナルな表現を使う。情報の受け手にどんな印象を与えたいか目的があらかじめあり、その目的が一番効果的に達成されるような文体、キーワード、ストーリーを選ぶ。そしてその情報は拡散し、世論あるいは常識を形成する。つまり、画一化された物の見方が広がって行く。
 著者は、画一化された見方で情報を解釈するのではなく、様々な視点で情報を解釈する複眼思考ことを勧める。なぜ複眼思考が必要か、著者は十分に述べていないが、私は複眼思考で面白い人間になれると思っている。
 世の中の人気ブログには2種類ある。一つは、流行の話題をいち早くブログにアップして行くタイプ。もう一つは、皆が知っている情報を独自の視点で読み解くタイプ。前者は、数週間経てばそんなそんな話題があったことすら忘れ、次の話題を提供して行く、いわゆるラットレース。一方、後者は時間が経ったときにブログをまとめて本になる。複眼思考はこの後者を目指す。
 さて、著者は、複眼思考を身につけるためのトレーニング法として、活字の情報を丁寧に読むことを勧めている。その勧めに従って、私も、例えば、牛丼チェーン「すき家」の過重労働問題のニュース「残業109時間や24時間連続勤務…すき家の“ブラック実態”明らかに 小川社長は「反省」」をみてみる。
 まず、タイトルの「ブラック実態」という言葉が、すき屋を黒と白に分けて黒だと印象づけようとしていることが感じられる。「ブラック実態」とは具体的に何かと探すと、労働実態が「法令違反状況に至っていた」ことのように読める。

牛丼チェーン「すき家」の過重労働問題をめぐる第三者委員会が31日、運営会社ゼンショーホールディングスに対して、「法令違反状況に至っていた」などと結論付け、改善を求めた。

しかし、法的には、残業109時間が法令違反であるわけでもなく、24時間連続勤務が法令違反であるわけでもない。記事を読み進めると、サービス残業と6時間以上勤務しても休憩を取れていないことが法令違反である、と書いている。では、サービス残業を何時間やっていたかという点には触れておらず、第三者委員会の調査ではサービス残業の時間数としてはインパクトのある値でなかった可能性がある。また、「居眠り運転による交通事故が7件」の部分は、サービス残業の多さにより、居眠り運転が起きたと印象づけようとしているように感じるが、その因果関係が示されていない。

またサービス残業に加え、6時間以上勤務しても休憩を取れないといった法令違反も慢性化し、平成24年度には社員の居眠り運転による交通事故が7件起きていた。

残業時間が109時間に関しては、24時間営業の店舗の話ではなく、本社(おそらくオフィスワーカー)の話であることがひっそりと示されている。この部分を良く読むと「4月」の話であり、恒常的に100時間を超える残業があったとは書かれていない。

本社の社員で非管理職418人のことし4月の平均残業時間は109時間に上ったという。

 まとめると、この記事は、タイトルで「ブラック実態」と印象的なフレーズを使って、すき屋が悪いという結果が出たという方向で読者を誘導し、さらに、センセーショナルな数字を切り出して、その印象を強化している可能性がある(調査報告書の表4をみると、2014年4月は特別多いことが確認できました。)。
 このように注意深く情報を読むことで、法令違反状況を解明したのは第3者委員会つまりすき屋自身が委託した調査であることに気付ける。そして、「ブラック実態」を法令違反のことだとすると、サービス残業と勤務中の休憩の件である可能性に気付く。では、なぜサービス残業を強いられているのか、というように新たな「問い」を発見することが可能となる。