「しない生活 煩悩を静める108のお稽古」(小池龍之介)は、心が乱れる原因を具体的な事例を基に解明し、これを鎮める方法を解説している。
心は、ほんのちょっとしたきっかけさえあれば、怒ったり後悔したり、不安になったり迷ったり、ねたんだり、自慢してえらそうになったり、自分から進んで乱れていこうとしてしまいます。
(中略)
私がじっせんしてきた仏道とは、このように乱れる心を呈英に解剖して見せる心理学でもある、と思っております。それを道具として、色々な煩悩から我が身を守る、心を保つお稽古をつけてまいりましょう。
(1節)
本書を読んでいると、人は他人の行動を見て、自分の価値を無意識に計るクセがあることが良くわかる。
- 他人が、自分を丁寧に扱わない時、自分の価値が下がったように感じて怒りを感じる。
- 他人が、成功すると、自分の価値が下がったように感じて不満になる
- 他人から、自分がどう思われるか気になって、自分を飾った言動をしてしまう
こう書くと、当たり前のように思える。しかし、人は無意識にカッコいい理由をでっち上げ、こちらを本当の理由だと思いこむため、始末が悪い。
(例えば、会う約束をくだらない理由でキャンセルされて怒りを感じたとき)
心の中には相手を非難する思考がうずまくでしょう。「そんなことで直前にキャンセルするなんて非常識な人だ」と。
けれども、その人前に出しやすいもっともらしい至高の裏には、人から隠したくなるような、恥ずかしい思考が潜んでいます。「自分はそんなちっぽけな用事なんかより優先して、尊重されないと気が済まないよう、うわーん」という。
(16節)
本書は、日常の様々な場面で心が乱れるケースを取り上げ、なぜ心がみだれるのか、表向きの理由に隠された本当の理由を解説する。
これらを読んでいると、表向きの理由は様々であるが、根本にあるのは他者を通して、自分の価値を計ろうとする心のクセに真因があると感じる。
おまけ
この「しない生活」と「四つの約束」(ドン・ミゲル ルイス)との間には、驚くほど共通点が多い。「しない生活」は、心の乱れる理由を具体的な事例で解説しているが、「四つの約束」は心の乱れる理由について、抽象度の高い説明をしている。
「四つの約束」では、子供が育つ過程で社会から刷り込まれる規範に、心の乱れる原因があるとしている。
私たちに一人前の人間は、どう振る舞うのか教える。
(中略)
同時に私たちは、批判することも覚える。w他紙たちは、自分たち、他の人々、隣人を批判し、裁くことを覚える。
(中略)
私たちは、ママやパパが好むことをするとよい子と呼ばれ、望まないことをすると悪い子と呼ばれる。
規則に逆らうと、罰を受ける。規則に沿っていれば、ご褒美を受ける。私たちは、一日のうち、何度も罰せられ、同時に何度も褒美を受ける。やがて私たちは、罰を恐れ、防備をもらえないことを恐れるようになる。
(中略)
褒美をもらうことは、気持ちいい。こうして私たちは、褒美を受けるために、他の人たちが私たちにしてもらいたい、と望むことをし続ける。
つまり、他人の行動を通して自分を計るクセがつくと言っている。このクセを直すための方法を4つにまとめて四つの約束と呼んでいる。
一番大切な最初の方法は、「正しい言葉を使う」こと。ここで何が正しいかを考えると、
あなたは、自分自身を裁いたり、避難したり、自分自身に罪を着せたりする。それは、あなたに背くことである。正しい、ということは、罪が無いということである。それは、自分に対して背かない、ということである。
つまり、社会から刷り込まれた規範により、人は他人の好む行動をしようとする。そんな行動がとれないからといって、自分を批判するなと言っている。同時に、他人を批判することもしてはならない。それは、自分に刷り込まれた規範に基づくものであるから。
「四つの約束」を初めて読んだ時、内容が抽象的で良くわからなかった。それが「しない生活」で具体的な事例における解説を読むことで、なるほどと腑に落ちた気がする。類似の本を読むことで理解が深まるということもある。
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