本書は、パンチの利いた出だしで始まる。
「今からお前を殺しに行くからな――」
お客様はそう言うと、プツリと電話を切りました。
- 作者: 榎本まみ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/03/10
- メディア: 文庫
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キャッシング専用カードで借金をした人へ、返金を督促する。著者はそんなコールセンターで働く督促OLである。
入社して督促の仕事を始めてからは、体重も半年で10キロ減。ストレスが原因のニキビがまるで火傷でもしたかのようにヒドく顔じゅうにできて、ずっと下を向いていました。
(中略)
私の働くコールセンターでは、毎月必ず誰かしらが職場を去っていきます。結婚を目前にして心を病んでしまい、働けなくなってしまった男性がいました。自分の母親と同じくらいの年齢の電話のオペレーターが、電話口で罵声を浴びせられ、ぽろぽろと涙を流している姿を、目の前で見てきました。
電話口で客が怒鳴る・罵声を浴びせる・脅迫してくる、こんな強烈なストレスに対する「感情労働」のOLとして、著者はストレスフルな仕事に対処する方法を研究する。
この本には私のトホホな毎日と、その中で身をもって開発したストレスフルな仕事に対処するノウハウを書かせていただきました。
ストレスフルな仕事に対処するノウハウは、二つある。一つは、怒鳴る相手の理屈を知ること、もう一つは自分の自尊心を持ち出さないことである。
怒鳴る相手には、やましい気持ちがある。
督促をするとお客さまに怒鳴られ、罵倒されることも多い。でも督促の仕事を続けているうちに、お客様が私たちを怒鳴るのは根っこにやましい気持ちがあるからだと分かるようになった。
お金返さなかったらどうなるのかな、という不安。ホントはお金を返さなきゃいけないんだけど返してない、という罪悪感。それを守るために、お客様は私たちを怒鳴る。
相手のやましさを和らげるため、会話の冒頭で自分から謝るという技を開発する。
お客さまは、督促の電話をかけてくる私たちに、怒られたりいやなことを言われたりするんじゃないかと警戒心を抱いている。だから怒られる前に怒鳴る。私たちを起こることで、自分の身を守ろうとしているんだ。
さらに、著者は「お客様タイプ別攻略法」を編み出していく。
自分が「ムダなんじゃないか」と思っている商品を買ってしまったお客さまは、支払をしないことで自分を正当化しているのだそうだ。
(中略)
決して上から督促ないこと。相手のプライドを満たすことが攻略の鍵になる。
自分の自尊心を持ち出さないことで、自分の心を守ることができる。
誰だってできないことがあるし、それを自覚することも一つの成長なのかもしれない。
他人から悪口を言われると、なぜ心が傷つくのか?著者は考える。そして、「それは、人間には自尊心があるからだ」と考える。
私はプライドが高かった。だって自分に自信がなかったから。自信がない人はプライドを高くすることで自分の心を守る。
自分を守るための自尊心が、他人から悪口を言われると、自分を傷つける。これに気づいた著者は、「自尊心を埋める」という行動に出る。
そして、「悪口コレクション」を作り始める。他人から言われた悪口を記録していくのだ。悪口を自分への言葉ではなく、ただの収集物とみなすことで、心を守る。
まとめ
督促の仕事は生半可なストレスではない。そのストレスから身を守る術が、相手を理解することと、自尊心を持ち出さないことである。具体的にどうやってそれを行うのか?その答えが本書には記されている。ストレスから身を守る術を知りたい人に、本書はお勧めである。
また、相手に厳しいことを言ってもなぜか好かれてしまう"ツンデレ・クロージング"など、督促OLのコミュ・テクが本書にはいくつも記されている。このようなコミュニケーションテクニックを知りたい人にも本書はお勧めである。
督促OL 奮闘日記 ちょっとためになるお金の話 (文春文庫 え 14-2)
- 作者: 榎本まみ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/10/09
- メディア: 文庫
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