学校では、戦争を切り口に世界史を習います。例えば、十字軍遠征やアメリカの独立戦争がいつ起きたかのように教えられます。しかしその戦争がなぜ起きたか、についてはあまり教えてくれません。戦争の理由は複雑で、経済・文化・宗教の対立など多面的で、また原因が一つとは限りません。
この本は、植物を切り口に世界史を説明しており、目から鱗が落ちる点が多いです。
以降、私が面白いと思った点をいくつか記します。
富は、お金ではなく小麦・米から始まったという点が述べられています。人類が狩猟時代だった頃は、狩った獲物を長期保存できなかったため、富は存在していなかった。農業が始まり、小麦や米などの保存・貯蔵できる食料が、富の始まりであり、貧富の差の始まりであった。江戸時代には貨幣は存在していたが、年貢を米で納める米本位制であったという指摘があります。
徳川家康が築いた江戸の街は、人口100万人を超え、当時の世界で最も人口の多い都市でした。当時、ロンドンやパリの人口は40万人だったので、世界でも飛びぬけて巨大な都市と言えるでしょう。この要因として、、米と小麦の生産性の違いが挙げられるとこの本は述べています。撒いた種子の量に対して得られる収穫量は、小麦が5倍だったのに対して、米は30倍もあります。この米の生産性の高さが江戸の街を支えたのです。
また、ジャガイモの話も面白いです。ジャガイモは南米のアンデスが原産で、16世紀にスペインの征服者によってヨーロッパに持ち込まれました。ジャガイモを知らないヨーロッパの人は芋ではなく、芽や葉の部分を食べてしまうことがあった。ジャガイモはソラニンという毒を持つ有毒植物であるため、健康を害する人も出た。さらに、ジャガイモは、聖書に書かれていない植物であったため、「悪魔の植物」というレッテルをジャガイモに貼り、食べようとはしなかった。しかし、近隣諸国との紛争が絶えなかった当時のヨーロッパでは、保存のできるジャガイモは国力増強に最適だった。そこで、フランスやドイツの王は、ジャガイモを広めるために様々な施策を打ちました。
徐々に食べられるようになっていったジャガイモは、船乗りの壊血病に効くことが分かり、イギリス海軍がジャガイモをいれたカレーを軍隊食として食べるようになった。インドのカレーはとろみの無いスープ状だが、イギリス海軍は船の揺れに対応するためにカレーにとろみをつけたというのも面白い。さらに、1902年に結ばれた日英同盟によって、カレーはイギリス海軍から日本海軍に伝わった。日本では、カレーのスパイスを醤油に変え、肉じゃがになりました、日本の肉じゃがの起源をたどればイギリス海軍に辿り着くのも面白い。
他にも綿の話、サトウキビ、トウモロコシなどの話も面白かった。