私がこうしてブログを書いているのは、文章にすることで思考がはっきりさせる練習をするためです。
言いたいことを一つに絞り、それが何故なのか理由と根拠を示す。これが文章を書くことだと思います。はてなブックマークやtwitterのような短文では脊髄反射的な表現になりがちで、しっかりした文章になりません。しっかりと書くには文字数が必要だからです。
本書「大人のための国語ゼミ」(野矢茂樹)は、文章を書くための教科書だ。定期的にこういった本を読んで文章の基礎技術を見直すことが、文章の技法を上げるだけでなく思考をはっきりさせるためにも大切です。我流で文章を書いていると、例えば理由と原因の違いといった微妙な点がおろそかになっていきます。
この本を読んで勉強になった点を挙げてみましょう。
問 次の文章中で不適切な接続表現を一箇所指摘し、適切な言い方に訂正せよ。
音楽の教科書などを見ると、髪をカールさせたモーツァルトの肖像画が載っている。あの髪はかつらである。では、どうしてモーツァルトはかつらをかぶっていたのか。禿げていたからではない。フランス革命以前のヨーロッパでは、かつらが貴族の車校における正装だったのである。しかし、フランス革命によって貴族の力が失われ、かつらもすたれていった。例えば、バッファやモーツアルトはかつらをつけているが、フランス革命以後のシューベルトやショパンはかつらをつけていない。
上の問いを考えて欲しい。文と文のつなぎに対するセンスを試す問題です。これはなかなか良い問題で、私はこれが分かるまで10分ほど要した。正解は敢えて記さないことにします。
本書の内容を簡単にまとめます。
- 相手のことを考えて文章を書く
読み手と共有できていない言葉や概念には補足説明が必要です。相手が何を知っていて何を知らないか、想定読者をしっかりイメージする。 - 事実なのか考えなのか区別する
例えば“日本の政治家には期待できない”と書いた時、これは事実なのか・推測なのか・意見なのか。往々にして人は自分の考えを事実として主張します。そうならないためには、自分の思考を磨く必要があります。 - 言いたいことを整理する
言いたいことがはっきりしないと、色々なことを書いてしまいます。まずは言いたいことを20文字程度で書いて見ることが提案されています。 - きちんとつなげる
接続詞に敏感になる。 文のつながりには以下の種類があります。 - 付加:Aということを言い、それにBということを付け加える。
- 選択:複数のことからどれかを選ぶ。
- 換言:あることがらを別の言い方で述べ直す。
- 例示:例を挙げて説明する。
- 対比:複数のことがらを比較対照する。
- 転換:前に述べたこととは逆方向の内容を主張する。
- 補足:前で述べたことに対して、説明を補ったり、例外を示したりする。
- 条件:Aという条件を仮定するとBが成り立つことを述べる。
- 譲歩条件:Bに反するような条件Aを仮定しても、なおBであると述べる。
- 理由:まずAが成り立つことを述べ、次に、なぜAが成り立つのかを説明するためにBと述べる。
- 帰結:まずAが成り立つことを述べ、次に、その結果としてBを述べる。
- そう主張する根拠は何か
- 的確に質問する
相手の話や文章に対して、行う質問は三種 - 情報の問い:より詳しい内容を訊いたり、関連する情報を訊いたりする。
- 意味の問い:相手の言ったことの意味がよく分からないとき、それを尋ねる。
- 論証の問い:相手の主張の根拠を尋ねる。
- 反論する
最後の反論するに関して補足しておきます。
A「カジノがあれば、外国からの観光客が増えることが予想される。また、治安の悪化や反社会的勢力の資金源につながる恐れもある。そうしたことを考えるならば、カジノは作るべきではない。」
B「カジノがあれば、外国からの観光客が増える。また、いままで外国のカジノに行っていた日本人を引き留める効果もある。さらにカジノ関連での雇用も生まれる。さらにカジノ関連での雇用も生まれる。こうした経済効果は極めて大きいものであるから、カジノを作るべきだ。」
上のBはAの反論になっているとおもいますか?実はAはカジノのデメリットを述べていてい、それにたいしてBはカジノのメリットを述べています。これでは、BはAの論証の反論になっておらず、みずかけ論になります。
反論するとは、相手の論証を批判することです。上の例で、Aはカジノを作ると反社会勢力の資金源になるから、カジノは作るべきでないといっています。ですから、「政府がカジノを作ることによって、裏カジノに行く客が減って、反社会勢力の資金源はむしろ減る」と主張することでAの反論となります。
まとめ
文章を書くことは、思考を研ぎ澄ますことです。
思考を研ぎ澄ますためには、エッセイのような文章を書けば良いわけではなく、構造のしっかりした文章を書く必要があります。その構造をどう作るか、どんな構造があり得るのか、ヒントは文章術の中にあります。
「大人のための国語ゼミ」は文章術の教科書としてよくできています。ただし初級編というより中級編。文章が上手くなりたいという熱意のある人向けだと思います。