kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



オリンピック選手と学者、スパコンと道路、そして税金

はじめに

来月(2010年2月12日)からバンクーバーオリンピックが始まる。フィギュアスケート浅田真央選手や安藤美姫選手、スピードスケートの岡崎朋美選手も調整に余念がないことだと思う。オリンピックのことを考えていたら、考えがまとまらずに書けなかった事業仕分けスパコン問題についてかける気がしてきた。

オリンピック選手と学者

オリンピック選手は世界一を目指して日々努力を続けてきており、彼女らに向かって「何故世界一でなければならないのか?世界2位では何故いけないのか?」と尋ねることは、ナンセンス以外の何者でもない。では何故、事業仕分けの場で蓮舫議員は「日本の次世代スーパーコンピュータへの予算編成に対し「世界一を目指す理由は何か。2位ではだめなのですか」と発言したのだろうか?それは、税金を使って国産スパコンを作る理由を、官僚が説明できなかったためだ*1

税金と土木事業と科学技術開発事業

税金の無駄使いとして槍玉にあがる公共事業(使われない道路の建設)は、土建屋さんの要求を国土交通省が取りまとめて税金を獲得することにより行われていることはご存知のことと思う。国産スパコン事業も同じ構図をしていおり、スパコン研究をしている学者の要求を文部科学省がとりまとめ税金を獲得しているものである。

「その道路は何故つくらなければならないのか?」と同じ質問をスパコンにもする必要があるのは、こうして並べてみると分かるだろう。これに対して文部科学省が「世界一になる」なんてことを言い出すから、蓮舫議員が「なぜ世界一になる必要があるのか?」と追求したのだ。それに対する学者(大学教授、助手、その他)の反論は、金メダルを目指すオリンピック選手と同じものである。オリンピック選手が金メダルを目指すのは当然だが、税金を使ってやる事業がオリンピックと同じでは困るのだ。

スパコンと税金

学者と付き合ったことのある方は分かると思うが、彼らは研究が好きだから研究しているのであって、それがなんの役に立つのかは後回しであることが多い。そのため、これまで聖域であった科学技術に対する予算に「あなたの研究はなんの役に立つのか?」と聞かれたのだから、過剰反応するのも仕方がないというところであろう。スパコンが何の役に立つのかという彼らの説明は、以下のリンクにあるのだが、これでは曖昧でなんの役に立つのか分からないといわれても仕方ない。
http://www.nsc.riken.jp/jigyoushiwake/QA.html

特に、このくだりはスパコン開発のことしか考えていない視野の狭さを感じさせる。事業仕分けの議論は、スパコンに1200億円を使うのか、それとも他の科学技術開発(科学技術開発プロジェクトはスパコンだけではない)に金を回すのかという議論である*2

それだけではありません。世界最先端の研究を行おうとしている優秀な研究者は、より良い研究環境を求めて国外に出て行くことになりかねませんし、製造メーカー等においてもスパコン部門の技術者が離散してしまい、技術者の育成も含めて次の世代のための技術の蓄積が失われる可能性が高まります。

事業仕分けの仕掛け人

日経エレクトロニクス 2010 1-25 pp.139 に、加藤秀樹氏(内閣府行政刷新会議事務局長)のインタビューがある。彼は、事業仕訳の仕掛け人であり、このインタビューから、税金の無駄遣いの実態と事業仕分け人の気持ちがが透けて見える。

なぜ事業仕訳が必要だったのか?

官僚や学者だけの閉じた世界で決められていた予算配分が、実際の現場でどのように使われているのか明らかにすることが事業仕訳の原点である。
(中略)
官僚や学者が作成した報告書がいくらきれいにまとまっていても、現場からその実態をみるとひどい問題を抱えた例が多い。

例として

岩手県の「育成事業」では、「公園で子供を子馬に載せる」という内容だった。

また、内容が公共事業的だったり、公益法人による「中抜き」があったりする。

要するにやりたかったのは、

研究の費用対効果を細かく見ているわけではない。お金の使い道を問題にしてる。

こういうことで、「短期成果がどうこう言わないけど、あからさまに無駄な金の使い方はやめてね」、というのが事業仕分け人の本音であろう。

まとめ

 科学技術に関することは高度な知識が必要となるため、正しい税金の使われ方をしているかどうか分かりづらい。税金の流れとして見た場合、土木事業と科学技術開発事業は同じ構図をしている。すなわち、既得権者と官僚が一体となった予算要求が行われている。一方、学者のメンタリティは、オリンピック選手と同じメンタリティをしている。税金の使い道の精査という観点から、学者に「あなたの研究はなんの役に立つのか?」と聞いた結果、学者の過剰反応を引き起こした、ということに思える。

追記

2009/02/3
米空軍、『PS3』利用で200万ドルのスパコンを開発中
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100203-00000002-inet-sci

*1:念のために説明しておくと、国産スパコンの推進をしているのは、独立行政法人理化学研究所であり、この理化学研究所文部科学省管轄の組織。

*2:あるいはスパコンでなく子供手当てに金を積みますのかという議論である。