「小さなチーム、大きな仕事」の読書メモ
wikipedia:Ruby on Railsを開発した37シグナルスという会社をご存知だろうか? その創業者・CEOのジェイソン・フリードが執筆した本であり、本書には彼の哲学が詰まっている。
彼の哲学を私が思い切ってまとめると、
- ハーバード流のビジネス理論は、蹴っ飛ばしてしまえ
- 小さい会社の方が小回りがきき、柔軟性がある(大きな会社には弊害がある)
- 長期の計画よりも、短期の重要事項に集中
さらに一言でまとめると、「一番大切なものをきちんとやるのが大切だ」と著者は言っている。大切なものを二つではなく、一番大切なものをやるのだ。
本書の目次(本書の構成)
- 見直す
- 先に進む
- 進展
- 生産性
- 競合相手
- 進化
- プロモーション
- 人を雇う
- ダメージコントロール
- 文化
各章にエントリが複数しるされており、各エントリは独立している。こういった本を読むときは、自分の心にひっかかったエントリについて深く考察するのが良いと思う。以下、心に引っかかったエントリ。
すべて良い内容だが、一つだけエントリを選ぶとしたら、「一線を画す」をお勧めする。
計画は予想にすぎない
長期計画を立てる時期も間違っている。何かをしている時こそ、最も情報が豊富な時だ。する前では無い。だとしたら計画をいつ立てるべきなのか?たいていの長期計画は何かを始める前に作るが、重大なことを決定するのにこれ以上悪いタイミングはない。
このくだりは非常に示唆に富む。プロジェクトがスタートする前に立てる長期計画は、
- 今後のシミュレーション、机上実験を行うため
- プロジェクトメンバー間で意識を合わせるため
立てるものであって、その精度は甚だ悪い。実行しながら柔軟に計画を変更することが大切だ。プロジェクトメンバーが多いとこの変更にかかるコストも大きくなるが、、、。
世界にささやかに貢献する
大きな仕事をするには、他と違ったことをしているという感覚が必要だ。世界に囁かに貢献している、あなたは重要なものの一部である、という感覚だ。
(中略)
顧客に、「私の人生を良くしてくれた」と言ってもらいたいはずだ。やめたら、みんなに気づいてほしいはずだ。
(中略)
何かをするなら、重要なことをしよう。
おっしゃる通り。自分のやっていることが、世界にとって重要だと思えないのなら、その仕事はむなしい。
中途半端な一つの製品でなく、よくできた半分の製品
多くのものは小さくするほど良くなる。映画監督は、素晴らしい映画を作るために良いシーンを切る。(中略)作家は、素晴らしい本を作るためによい文章を削除する。
(中略)
だから、どんどん切り落としていくのだ。素晴らしいスタートが欲しいのならば良い素材を見分ければいいのだ。
大切なものを見分けるのではなく、一番大切なものを見分けることが大切だ。でも、それが難しい。
初めのうち詳細は気にしない
僕たちが何かをデザインするとき、普通のボールペンを使わずに、大きな太線のマーカーを使ってアイデアを描く。なぜか? 普通のペンでは、あまりに細すぎて、はっきりと写りすぎるのだ。点線を使うか波線を使うかなど、まだ気にしなくてもいいようなことにも気がいっていしまう。
(中略)
実際に作り始めるまで、本当に大切なディテールに気づけないことは多い。そのときこそ何に注目すべきか考えるときだ。本当に足りないのは何かを知ることができるその時こそ、ディテールに目を向けるときなおだ。
おっしゃる通り、情報が足りない状態なのに細部が気になって議論が前に進まないことは多い。概略の議論が終わっていないのであれば細部を議論しても有意義ではないことが多い。
キュレーターになれ
一つの部屋に世界中の芸術作品を置くだけでは、博物館とは言えない。それは倉庫だ。博物館を素晴らしいものにするのは、何が壁にかかっていないかなのだ。
(中略)
大切なのは中に置かなかったものである。だから、つねに取り除き、新ブルにし、合理化するよう努めよう。キュレーターになろう。何が真に必要かに拘るのだ。一番大切なものだけ残るまで切り落としてそれを繰り返していくのだ。もし必要ならば、後で追加できるのだから。
「自分の製品が、その機能を持たないことが重要だ」と言えるか? 自問自答が必要だ。「ない」ことが価値だ。分かっていてもむずかしいんだけどね。
変わらないものに目を向ける
多くの会社は「次の大きなこと」に目を向けている。人気が急上昇しているもの、新しいものに金をつぎ込み、最新のトレンドや技術に飛びつくのだ。
それは愚かな戦略だ。ものそのものではなく、流行という常に変わり続けるものだけに焦点を絞ることになる。
ビジネスを立ち上げるなら、その核は変わらないものであるべきだ。人々が今日欲しいと思う、そして10年後も欲しいと思うもの。そうしたものにこそ力を投入すべきだ。
アマゾン・ドットコムは、迅速な(無料の)配送、選び抜かれた品々、安心の返品の仕組み、そして手頃な価格に焦点をおいている。こうしたものにはいつも高い需要がある。
(中略)
流行は去りゆく、という事実を忘れないでほしい。変わらない機能に焦点を当てれば、時代遅れなんて言葉はまったく関係がなくなるはずだ。
このエントリは、私が本書で一番衝撃をうけたものの一つだ。流行を追うな。それは変わり続けるのだから。
やめた方がいいものを考える
やらなければいけないと考えているものに取り組むのは簡単だ。顔を上げ、なぜそうしているのだろうかと考える方がもっと難しい。
自分が本当に大事な仕事に取り組んでいるかどうか、次のように問い直してみよう。
- なぜ行うのか?
目的は明快か?
- どういった問題を解決するのか?
何が問題なのか?本当の原因はどれか?
- これは本当に役に立つか?
- なにか価値を加えているか?
価値を加えていると思っているものが、価値を減じていることもある。
- それは行動を変えるのか?
本当に何かを変えるか?そんなに変わらないのならやめた方がよい
- もっと簡単な方法はないのか?
代替手段・方法は往々にしてある
- かわりに何をすることができるのか?
これをやめることで、他に何かもっと有意義なことはできないだろうか?
- 本当にその価値があるのか?
最後から二つ目の「かわりに何をすることができるのか?」の問いにも、私は衝撃を受けた。
解決策はそこそこのもので構わない
多くの人は複雑な解決策によって問題が解決されることに快感を覚える。頭を使うことに酔うことさえできる。次には、それが両案であるか否かはそっちのけで、同じ切迫感をもたらす別の大問題を探し始める。
(中略)
問題は通常、単純で平凡な策によって解決することができる。そこに花やかな活躍の場など無い。見事な技術を披露する必要もない。ただその課題をとっとと片づけて、次につなぐ何かを作るだけである。
(中略)
そこそこの解決手段で仕事を進められるときはそうしよう。それはリソースを無駄にしたり、複雑な解決策を出すことができないために何もしないよりも、ずっとましな方法だ。
このエントリは私が最大の時間をかけて読んだ部分である。問題を解決できる・できないの二分法で考えないこと、そこそこ解決するので十分な場合がある。
顧客を(あなたよりも)せいちょうさせよう
既存の顧客に拘り続けえいると、新たな顧客から自社を切り離してしまう。あなたの製品やサービスは既存の顧客にあまりにも最適化されており、新たな顧客には魅力的ではなくなってしまう。このようにしてあなたの会社は傾き始めるのだ。
(中略)
人も状況も変化するため、全員に対してすべてを提供することはできない。あなたの会社はニーズがころころ変わる特定の個人よりも、あるタイプの顧客に忠実である必要がある。
今の顧客の要望にノーと言うのは難しい。しかし、具体的な顧客の変化に対応するのではなく、自分がターゲットとしている顧客属性に忠実でいることが重要である。
一線を画す
前進する際に、なぜそれをしているのかを常に念頭に置いておこう。すばらしいビジネスは単なる製品やサービスではなく、「視点」をもっている。何かを信じなければならない。気骨が必要だ。何のために戦うのかを知り、その世界を見せる必要がある。
(中略)
信じているものが何かを分かっていなければ、すべてが議論の対象になってしまう。すべてに議論の余地がある。しかし何かよってたつものがあれば、決断は明らかになる。
本書の核心はこのエントリにある。「視点」があるからこそ優先度を決めることができる。本書は、一番大切なものからしっかりやっていくことを述べているのだ。その一番大切なものを見つけるには「視点」必要だ。
小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則
- 作者: ジェイソン・フリード,デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン,黒沢 健二,松永 肇一,美谷 広海,祐佳 ヤング
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/01/11
- メディア: 単行本
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