kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



クルーグマン教授の経済入門

前置き

 経済に対する解説は、不思議です。TVやネットで、昨日の株価は◯◯円で、これは米国政府の発表を市場がすでに織り込んでいたためです、などと解説されるやつです。結果を見てから後出しで”〜を市場が織り込んでいたため反応しなかった”、あるいは”〜が市場にサプライズを与えたため株価が反応した”と解説されます。これって、誰にでもできることなのでは?
 
 「クルーグマン教授の経済入門」(ポール・クルーグマン著)は、分かりにくい経済に関する解説書です。ノーベル経済学書を受賞したクルーグマン教授が書いただけあって、経済の根っこのところを素人でも分かるように解説しています。
 私たちが経済に関心を示すのは、なんだか経済がうまくいっていない、と思っているからではないでしょうか?なんだか暮らし向きが良くないと感じています。そのため、経済ニュースや書物を眺めたりしています。しかし、本書でも述べている通り、経済に関する書物・情報は、素人向けに楽しく読めるしかし中身のない解説書か、昨日の統計情報(株価、失業率、為替等)を後付けに説明したものがほとんどです。そんな情報を集めても、何も見えてきません。
 経済の問題ってそもそも何なのか? それらの問題は他の問題と相互に絡み合っていて、どういう相互干渉をするのか? そもそもその問題を解決する手法はあるのか? こういった基本的な疑問に本書は応えます。
 

本書の内容

 まず、経済の問題は3つしかなく、それを解決する有効な手段がないことを、本書は示します。その問題とは、

  • 生産性の成長(簡単に言うと労働者一人当たりのGDPがいくら伸びているか)
  • 所得分配(いわゆる、貧富の格差というやつ)
  • 失業率

たったこれだけ? という感じですが、経済の根っこの問題とはこれだけです。
 生産性を成長させる有効な手段がないことは、直感的にわかるとおもいます。「イノベーション」という掛け声を、経済紙や書物でよく見かけます。でも、「イノベーション」を起こす手段って、誰にもわからないんですよね。
 所得分配の問題は、少し複雑です。問題は、低所得者が割りのいい仕事をしていないことです。解決策は、低所得者の人に勉強させたりトレーニングさせたりして、割りのいい仕事ができるようにするか、今のままのスキルでできてしかも割りのいい仕事を創ることなんですね。どうやってそれらができるか、誰にもわかっていません。
 最後の失業率の話は、さらに複雑です。失業率とインフレは関係があって、失業率ゼロパーセントにすると、ハイパーインフレになることがわかっています。インフレを加速させずに失業率ゼロパーセントを達成する方法は誰にもわかっていない。だから、失業率はある一定の値になるようほったらかしになっています。
 
 本書では、さらに、上のようなどうにも解決のやりようがない問題ではなく、少し解決ができそうな問題について述べています。それが貿易赤字財政赤字自由貿易の問題。これらの問題は、実は大した問題ではないことも示されています。これらの問題による損失って試算によれば数兆円って額になりますが、もともと国の経済規模が大きい(日本だと500兆円くらい)ため、全体的に見えると小さい問題なんですね。

まとめ

 経済は、例えば失業率とインフレのように、様々なものが相互に絡み合っていて難しい。しかも、問題の解決方法について、正解が分かっていないものが多い。そのため、様々な意見が世間にあり、それらがバラバラと本やTVで発信されている。本当の問題は何か分かりづらい。
 本書を読むと、根っこにある問題は何か? それを解決する手段はあるのか? その問題はどれくらい重要か? が分かりやすくなります。これらのことが分かると、ネットやTVで発信される情報の意味もわかってきます。「人生を面白くする本物の教養」(出口治明著)で、物事の根っこを抑えることの大切さが述べられています(詳しくは、別エントリ「人生を面白くする 本物の教養」を参照ください)。本書はそういった一冊です。

クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)

クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)