kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



反原発のアンチテーゼとしての再生可能エネルギーとそのシンボルのスマートグリッドと電力改革と

 「電力システム改革の行方」(nippon.com)に今の電力行政の考え方がうまくまとまっている。良くまとまっているが故に電力行政のおかしなところも透けて見える。
 この文章から読み取れるのは、「スマートグリッド」のキーワードのもとで、以下をごちゃまぜに進めようとしていることが分かる。

以下、文章を丁寧に突っ込んでいこうと思う。

新しい日本のエネルギー基本計画策定の一環として、筆者が委員長を務める経済産業省総合資源エネルギー調査会の電力システム改革専門委員会は、今後の日本の電力システムのあり方を検討している。今回はこの電力システム改革の方向性について解説したい。

著者の伊藤元重氏のプロフィールを見ると、経済学者である。なぜ電力システム改革専門委員会の委員長が経済学者なのだろう?少し不思議な感じがする。

求められる電力システム改革
福島第一原子力発電所の事故は、日本の電力システムを本格的に見直す重要な転機となった。それまでの日本は10の地域に分かれた電力会社が、それぞれの地域でほぼ独占に近い状況で、しかも発電から送電、配電、そして小売りと、電力供給機能のすべてを垂直統合していた。

この段落は、以降の文章に特段につながりをもたない。原発事故と垂直統合には何の関係もない。関係の無いものを並べて、なんとなく垂直統合が悪いものと誘導しているように思える。

電力における規制緩和は世界の潮流である。その鍵となるのは発電と送電の分離(発送電分離)であり、小売りや卸レベルでの自由化政策である。日本もこうした規制緩和策をとってきたが、改革の踏み込みが十分でなく、結果的に電力会社がそれぞれの地域をほぼ独占するという状況が続いてきた。

「電力における規制緩和は世界の潮流である」という書き方は、根拠がない時のお決まりのパターンですね。世界とはどこのことなのか、人口比で言えば中国のことだし、国の数で言えば現在200近い数の国がありますから、潮流と呼ぶには100以上の国が規制緩和をしていることを期待するわけですが、根拠を示さずに「世界の潮流」と言いきっています。
また、「規制緩和は世界の潮流」というときの「規制緩和」って何を指すのかも意味不明です。いまよりも緩和すれば良いと言葉上読めますが、かなり曖昧です。

電力システム改革を実行することで期待される効果には次のようなものがある。

(1) 地域の電力会社や新規参入の企業の間でより広域での競争が起き、料金引き下げやサービス向上が見込まれる。

(2) 発電ビジネスを行う各社に対して中立的な送電網が広域に形成されることで、再生可能エネルギーなどの利用拡大を目指す。

(3) 小売りレベルでの自由化を進めることで、省エネや分散電源の利用拡大を目指すとともに、供給の変動に応じて柔軟に対応する需要調整(デマンドレスポンス=demand response)のメカニズムを強化する。

こうした改革の方向を理解するためには、これまでの日本の電力システムのどこに問題があるのか知る必要がある。

 (1)は発電業者の参入を増やし価格競争を起こすと言っているのですが、これをやると停電が増えます(発電業者が倒産した場合を考えてほしい)。
 (2)はちょっと意味不明です。「中立的な送電網が広域に形成されることで」というのは、どうやってこれを形成するのでしょう? ここはそんな送電網ができたらいいなぁという願望でしかありません。
 (3)は「電力システム改革を実行することで期待される効果」ではありません。「需要調整のメカニズムを強化する」というのは効果ではなく改革の内容です。

広域連系が貧弱だった日本の送電網
福島第一原発事故が起こるまで、日本は原子力発電への依存度を高めてきた。エネルギーの安全保障という意味でも、温暖化ガス排出抑制という意味でも、原発は都合が良かったのである。沖縄電力を除く各地域の電力会社は原発建設を進めてきた。電力需要の増加に応じた安定供給を実現するため、原発が建設され、原発から消費地に向けて太い送電網が整備されてきたのだ。

ただし、前述のとおり、各電力会社は地域独占の下で電力供給機能のすべてを統合していたから、送電網も電力会社ごとに整備されてきた。こうした地域ごとの安定供給モデルを実現する上で、地域を越えた広域の電力ネットワークを構築することはそれほど重要なことではない。結果的に日本の送電網は地域間をつなげる連系線が非常に貧弱になった。東日本と西日本がサイクルの違う電力を供給しており、その間の連系が貧弱であることに加え、北海道と本州の間などの連系線も貧弱であった。

地域間で広域に電力をやり取りする必要がなかったことが、こうした状況を放置させたとも言える。その結果として、それぞれの地域での独占が維持され、電力会社間での競争も起きなければ、新規業者が参入することも難しかった。

最初の段落の原発の話は、広域網が発達してこなかった理由とはなんの関係もない。どうも原発のネガティブなイメージと広域もの未発達なイメージを重ねようとしているだけに思える。
3段落目も「広域に電力をやりとりする必要がなかったこと」を「独占が維持され」た原因のような書き方であるが、実際は逆である「独占が維持され」たので「広域に電力をやり取りする必要がなかった」のである。なぜ「独占が維持され」たかってそれは電力供給が国の許認可事業であるからだ。

安定供給から需要調整へ
原子力発電への依存度を下げていく。これが今後の日本のエネルギー政策の基本的な方向である。どのようなスピードで下げていくかについては、まだ議論が続いている。しかし、詳細の計画がどのようなものになるとしても、日本で原発依存度が下がっていくことは確かだ。

原発依存は、日本の電力の安定供給を支えてきた。伸びていく需要を原発の能力アップや新規建設で賄ってきたのだ。今後は、この安定供給という考え方を修正する必要がある。すなわち、需要に応じて供給を確保するという視点だけでなく、供給の変動に需要をどう対応させるのかという需要調整の考え方である。

特にピークの需要を抑える仕組み、省エネをさらに進めていく努力、そして再生可能エネルギーが持っている供給の不安定性に対応する手法の整備などが鍵となる。

小売りを全面自由化し、スマートメーターの設置を加速化することは、こうした需要サイドの対応を進めるために重要である。スマートメーターを活用したきめ細やかな料金設定、さまざまな業者の参入による需要調整プログラムの導入などが期待される。

この部分はとても大切だ。「安定供給から需要調整へ」とあるように、「安定供給」の優先度を下げるといっている。「需要調整」というのは、例えば電力が足りない時間は電気代を上げることで、需要を下げることを言う。簡単に言えば、電気代は高くなるのだ。

新規業者の参入に期待
発送電が分離され、中立的かつ透明性の高い料金設定をする送配電網が発電ビジネスから独立することで、さまざまな新規業者の参入を促すことになるだろう。

これまで原発利用を拡大してきたため、日本の火力発電の設備は老朽化している。火力発電に十分な投資をしてこなかったのだ。発送電分離によって発電ビジネスにさまざまな企業が参入することで、より効率的な発電への投資が進むことも期待したい。

発電ビジネスへの参入は、大規模型の投資だけでなく、消費地でのコジェネ(コージェネレーション=発電時に発生した排熱を冷暖房や給湯などに利用するシステム)などの分散型電源への投資も含む。また、ガス会社や石油会社など、他のエネルギー企業も電力ビジネスに積極的に関わることで、総合的なエネルギー産業の中に電力を位置づけることが可能となる。

ここの部分はただの期待なので、まぁ読み流しておけばよかろう。

政府が進めようとしている発送電分離の改革のもう一つの狙いは、送電網の広域化を進めることだ。地域間の連系線が貧弱であることが日本の電力システムの弱点であると言ったが、この問題を解消することが電力システム改革の第1歩となる。

送電網の広域化が進めば、地域を超えて電力会社間の競争が進むことが期待される。また、再生可能エネルギーの活用を拡大するためには、電力供給・利用の広域化がどうしても必要になる。広域での電力のやり取りによって、再生可能エネルギーの欠点である供給の不安定性を緩和できるし、北海道などの風力を首都圏などでも利用できる可能性が開けてくるのだ。

ここの部分も重要で、「送電網の広域化が進めば」ってどうやって進めるつもりなのだろうか?私はこれを進める具体的なプランを聞いたことがない。アメリカの例をみると、送電網の業者は付加価値がつけにくいため儲かっていない。その儲かっていない業者に広域化を進めろと言うのは、酷なことである。またそんな儲からないところに参入する業者もいないであろうから、各電力会社に命じて会社を作らせて補助金を出して網を広域化するしかないように思える。これって規制緩和なのだろうか?