kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



ヤバい経営学

 いつからだろう? マネージメントスキル、リーダーシップ、経営手法があれば成功すると思ったのは。本屋に行くとこの手の本がたくさん並んでいる。例えば、「ビジョナリーカンパニー」という本は、成功している企業の経営者の共通点を示し、こうすれば成功できるますと言う。この手の本はみんなそうだ。成功している人の共通点は、○○です。○○をすれば君も成功する。こんなロジックだ。
 経営手法について語る人間は2種類いる。コンサルタント経営学者だ。実は経営者は経営手法について語ることは殆ど無い。ここが重要だ。コンサルタントという人種が、成功した会社に共通する経営手法は○○だと、他の経営者に吹き込んでいく。こうした経営手法の結果、それが良い結果であれ悪い結果であれ、が明らかになるには時間がかかる。結果が出る前にコンサルタントは次の会社に行って、こう言う、成功した会社はみんな○○をやっています、そして他の会社もどんどん採用していますよ、と。
 経営学者というのは、経営手法が実際に役に立ったかどうかの歴史を確認している。経営学者が結論を出すのはコンサルタントが新しい経営手法に乗り換えた後だ。実は、○○を採用して成功したのは5パーセントの会社で、統計的には○○は良い手法とは言えない、といった結論を出す。
 実際の所、経営学というのは役に立つのだろうか? 経営学者の楠木健は、経営学で説明できるのは2割、残り8割は経営者の直観と言っている。そんなものだろう。
 「ヤバい経営学」によれば、経営者というのは様々なことに影響を受けている。ストックオプションを持っていれば、ハイリスク・ハイリターンの戦略を採る傾向にある。また、野心家の経営者は良い会社にするよりも、会社を大きくすることに注力する。経営者としての有能さを示すには”会社の良さ”といった漠然とした指標よりも”会社の大きさ”の方が分かり易いからだろう。会社を大きくするにはM&Aが簡単だ。「ヤバい経営学」によれば、統計的にはM&Aの大半が失敗する。買収される会社が良い会社であるほど買収金額が高くなる。買収プレミアが高いという。その高いプレミアム分以上に儲けを出すには、買う側の経営者が買われる側の経営者よりもずっと有能である必要がある。そんなことは滅多にない。だからM&Aの大半は失敗する。
 こういったコンサルタントや経営者にとって痛い話が「ヤバい経営学」には多数記されている。
 私の好きな部分をいくつか記しておく。

しかし、経営者はイノベーションを生み出す、なんて決めても、そのとおりになるわけではない。経営者は提案し、命令し、檄を飛ばすことはできるが、それで新しい製品を生み出すことができるわけでもない。

要は、経営者がイノベーションを生むわけではないということ。
 

イノベーションを生み出す革新的な会社は本当に良いのか。このテーマに関するアカデミックな研究をみると、はっきりとした証拠はない。
(中略)
これらのデータから、統計的な手法で調査を行った。イノベーションによって、会社が数年にわたって成長したかだ。そして、その答えは「No」だ。実際にはむしろ、イノベーションによって成長のスピードは遅くなっていた。
(中略)
イノベーションを起こす会社は、死ぬ可能性(倒産する可能性)も高い。
(中略)
イノベーションを起こすものは、そうでないものよりも失敗する。リスクを取らない者よりもだ。平たく言えば、「イノベーションを起こす会社は早く死ぬ。ほとんど例外なくだ。」リスクとリターンのトレードオフすらない。統計結果が言っているのは、「イノベーションを目指すべきではない。そうすれば、イノベーションを起こす人よりもリスクを取らずに高いリターンを得られる。」

考えてみれば当たり前の話だ。今うまくいっていることを変える必要はない。新しいことを探索し、試すには、コストが必要だ。そして、良いことが起こる可能性は極めて低い。宝くじを狙うようなものだ。そんなコストがあれば、今やっていることを一生懸命やった方が良い結果が出る。
 

「株主価値経営」はいったいどこから来ているのか
(中略)
 株主価値は経営者が期待されているもっとも根本的で重要なことだ。しかし、なぜ株主価値が一番重要氏されているのだろう。この疑問に対する答えは簡単だ。それはアメリカからきているからだ。
(中略)
 しかし、なぜだろう。なぜ私たちは、企業の最も重要なステークホルダーは株主だと考えるのだろうか。この事象に疑問を抱いて、反論する人をあまり見かけない。まるで議論の余地が無い紙が与えた真実で、それについて話し合うなんて恥ずかしいことだと言わんばかりだ。
(中略)
「株主は少なくとも会社の所有者ではない」
(中略)
株主の第三者責任が有限であることと同様に、株主の会社所有権は制限されている、ということだ。

要するに、株主は会社に「金」を出している、だからといって会社を所有しているわけではない。だって、会社が不祥事を起こしたときには出資分を失うだけの有限責任しか負っていない、罪に問われるわけではない。株主価値最大化なんていうのは、アメリカ人の経営コンサルが考えた神話だということだ。

ヤバい経営学―世界のビジネスで行われている不都合な真実

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