
- 作者: 有川浩
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/01/23
- メディア: 文庫
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「空の中」「海の底」とあわせて自衛隊三部作と呼ばれる、有川浩の小説。人間が塩の塊に変わる奇病が進行し人類が危機に瀕するする世界が舞台だ。
ストーリの構成として、女子高生が元自衛隊隊員の男と暮らす理由づくりに奇病が使われている。人類の危機と言えば、新井素子の「ひとめあなたに」を思い出す。こちらは、人類死滅の危機に際して人々が狂っていく様子がシュールに描かれている。一方「塩の街」では、淡々と人は生活を続けている。
自衛隊三部作と呼ばれている(角川書店のマーケティング戦略としてそう呼んでいる)が、自衛隊はほぼ関係ない。「空の中」「海の底」ががっつり自衛隊であることと比べると、「塩の街」では自衛隊を意識しなくても良い。あとがきで作者自身が書いている通り、拙い作品だ。
投稿時から数えると七年以上前の作品ですから当然今よりつたないです。
この小説の突っ込みどころとして、入江が真奈を塩の部屋に閉じ込める場面を挙げる。塩の塊破壊に向かう秋庭に司令官の入江は言う。秋庭が作戦を成功させるための激励である。
『作戦をね、成功させて帰っておいで。それで丸く収まるよ』
しかし、作戦の最大にして唯一の難関である米軍厚木基地襲撃は、入江によって米軍と話がついており、楽々と成功する。茶番である。
入江は、なぜ真奈を塩の部屋に閉じ込めたのか?意味不明である。
この小説の読みどころは2つ。
(1)秋庭は世界を救うために作戦に出たのではない。真奈を救うために作戦を遂行し、世界はそのついでに救われたとしている点。
(2)「空の中」「海の底」に影響しているであろう、作者の思考・嗜好を感じることができる点。例えば、末端の犠牲者は組織の上官に上がってくる頃にはただの数字に丸められている、という表現は本作品だけでなく「海の底」でも出てくる。また、入江と秋庭というペアは、「海の底」の夏木と冬原と類似性を感じる。