有川浩の「ラブコメ今昔」を読みました。その感想・レビューを記します。
有川浩と言えば、自衛隊への愛が溢れている作家で有名です。「空飛ぶ広報室」「海の底」「空の中」など自衛隊の出てくる小説多数。中でも「クジラの彼」は、自衛隊員を主人公にした恋愛短編集でしかも激甘という異色の内容です。
この「ラブコメ今昔」は「クジラの彼」と同じく自衛隊員の恋愛を題材にした6編の短編集です。「クジラの彼」は恋人時代に焦点を当てているのに対し、この「ラブコメ今昔」は、結婚に焦点が少し移っています。
感想
6編のうち1つめの同名短編「ラブコメ今昔」は、50代の今村二佐の馴れ初めのお話。お見合いで妻となる邦枝との出逢いの様子が、真面目な恋愛というように描かれていて清々しい(お見合いが恋愛になるというのも、幸せなパターンで微笑ましい)。
「父が・・・・・・付け焼き刃で3ヶ月前から始めたような習い事を釣書に書くようなごまかしはするなって」
これは、お見合いの場で邦枝が今村に語った言葉。真面目な邦枝の父の性格、邦枝の呑気な性格などが伝わってきて、好きな部分です。
また、今村がスーツを拵えに邦枝と出かけた部分は、邦枝の可愛さとしっかりした様子がうかがえて素晴らしい。
そして、この小説の最後は、とんでもないドンデン返しが用意されている。これはネタバレになるので内緒です。
二つ目の「軍事とオタクと彼」は、海上自衛隊の彼と普通の女子の恋愛の話。しかし彼は強度のオタク。この設定がユニークで素晴らしい。海上自衛隊は海に出れば数ヶ月は帰って来れない、それを待つ彼女。恋愛ものとしては激甘の設定です。非凡な設定の上で紡がれる激甘ストーリーが切ない。
6編のうち、この二つが特別好きです。
名言
「これから家庭を作っていくお二人ですから意見が衝突することもあるでしょう。しかし、新婦の美奈子さんは、どんなケンカを前日の晩にしても、翌日の朝は必ず笑顔で宮崎君を送り出してあげてください。いついかなるときに、いかなる事態に陥るか分からないのが我々自衛官です。いざというときにお互い悔いを残さないためにも、ケンカは翌日に持ち越さない。これだけは上官として自衛官として、何とぞよろしくお願いします」
(「秘め事」より)
これは自衛官の結婚式の定番スピーチだそうです。仕事に出た後に必ず帰って来れるとは限らない、そんな自衛官の危険な職務を鑑みて、家を出るときは必ず笑顔で行ってらっしゃいを言って欲しい、さもないと後悔を残すことになる、そういう言葉です。僕たちは、死ぬことをある種忘れて生活しているので、いつか仲直りができると思ってしまいますが、そのいつかがあるとは限らない。そのあたり前のことに気付かされます。
まとめ
有川浩の「ラブコメ今昔」を読みました。自衛隊の恋愛という珍しい題材の小説です。特に1つ目と二つ目が面白い。