kotaの雑記帳

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小説「空飛ぶ広報室」(有川浩):自衛隊員は人間である、当たり前のことが分かる本

 ドラマ「空飛ぶ広報室」をTVで見たのは随分前だ。綾野剛柴田恭兵が熱演で毎週楽しみに見ていていた。新垣結衣はヒロイン役だったけど、冒頭数回は”新垣結衣”を出し過ぎでドラマの中で浮いていた。演出が悪い。また、ムロツヨシは当時全然売れていなかったけど、いい演技をしていた。

 原作小説「空飛ぶ広報室」(有川浩)を読んだのは、それからずいぶん後になり、最近のこととなった。

 緩い感じのオムニバス形式で、6話からなる。

 第一話「勇猛果敢・支離滅裂」は、小説の登場人物や舞台の説明の役目も果たす力作。航空自衛隊ブルーインパルスに幼いころから憧れ戦闘機乗りを目指した空井大祐は、ブルーインパルスパイロットに合格したところで交通事故に遭い夢を絶たれ、空自の広報室に勤務していた。一方、TVの報道記者だった稲葉リカは左遷されTV番組ディレクタになっていた。この失意の二人が、ぶつかりながら前を向く過程を描いている。

 以降、第二話「はじめてのきかくしょ」では、稲葉リカが空自広報室に馴染む様子を描き、第三話「夏の日のフェスタ」では、空自広報室の空井の同僚である片山和宣と比嘉哲広の過去の仕事と夫々の拘りを描いている。第四話「要の人々」は、空自広報室の柚木典子と槙博己の恋愛を女を捨てたキャリアウーマン仕立てで描く。第五話「神風のち逆風」で、自衛隊の置かれている事情、世間は自衛隊を嫌っている、を見事に表している。最後第六話「空飛ぶ広報室」は集大成、空井が因縁のブルーインパルスを使った広報を担当、そして広報室長の鷺坂との別れも。

 

 自衛隊の広報活動を題材にした、これがこの小説の最大の特徴だ。殆どの日本人は自衛隊について知らない。まして自衛隊に広報室があると知っているものなど皆無だろう。これを題材に選ぶというのだから驚きだ。それを広報活動から自衛隊を切り取ることで、親しみやすい楽しい小説に仕上げている。

 

これって自衛隊の宣伝ドラマなの? 航空自衛隊広報室が舞台の青春ドラマだけど、全部がまるごと航空自衛隊の広報活動みたいだ。

(「<空飛ぶ広報室> 今が旬の綾野剛と新垣結衣で自衛隊宣伝ドラマ?透けて見えるアベノポリティックス怖い」【JCASTテレビウォッチ】) 

 

 ドラマ「空飛ぶ広報室」に対して上のような批判があった。自衛隊を好意的に表現するのは気に食わないのだ。

 作者の有川浩は、この反応を読んでいた。小説の中に、全く同じ話が載っている。

 第五話「神風のち逆風」はがそれだ。自衛隊自衛隊の若い女性隊員を使った広報映像を作った。彼女の入隊理由は、自衛隊員だった亡き父に憧れたというものだ。美談である。この美談に世間が理不尽な苦情を申し、自衛隊員はひどく傷つけられる。

 

 この小説で描かれていることは、(1)自衛隊という組織の不自由さ、(2)組織批判を個人批判に広げる愚かさ、の2点だ。

 

 自衛隊は不自由な組織だ。自衛隊の位置づけを巡って現在でも憲法改正の議論がなされている。自衛隊違憲か合憲か。その狭間で自衛隊への世間の視線は冷たく批判も大きい。

「戦闘機のパイロットだったころ、毎日訓練に励んでましたけど、磨いた技術を実践で使いたいと思ったことは一度もありません」

「でも、技術を磨いたら実際に実力を試したくなるものじゃないんですか」

懐疑的な声を投げたリカに、空井は驚いたように目を瞠った。「だって」と口ごもる声は心底戸惑っている。

自衛隊専守防衛が身上なんですよ。国外に攻め入ることはありませんから、もし僕が実践を体験するとしたら、日本で戦争が起っちゃってるんです。僕の大事な人が戦争に巻き込まれるんですよ。親兄弟や友達、もし結婚したら奥さんや子供も。イヤに決まってるじゃないですか、そんなの」

 

 厳しい訓練を毎日行っているが、日本に何も起こらないのが一番なのだ。自衛隊が大活躍する、そんなことはない方がいい。要するに組織ミッションが矛盾しているのだ。

 そのため、自衛隊は自分たちの良いところをPRできない。上のような批判があるためだ。不自由な組織だ。PRできない組織は、人々に知られることはない。無知は誤解を生み、一層批判を受ける。

 組織ミッションに矛盾を抱える組織は弱い。災害救助で自衛隊は大いに活躍しているが、それを自慢げにアピールできない。災害救助を専門にして武器を捨てろなど批判がくるからだ。

 

 批判する人は、ひどい一般化をする。 自衛隊違憲だ、自衛隊はけしからん、自衛隊に良いところはない、自衛隊員にろくな奴はいない、というように。別に自衛隊に限った話ではない、あの国はけしからんと言うときその国民すべて悪いような言いぶりをする、あの会社はけしからんと言うときその会社員すべてが悪いような言いぶりをする。よくある話だが。過度な一般化をするのは愚かだ。分っていてもやってしまう。

 

まとめ

 本書は、広報という切り口で自衛隊を面白おかしく描いている。そうして、自衛隊の不自由さと、組織を一般化して個人批判をする愚かしさを、浮き彫りにしている。

 TVドラマとは違って、空井大祐と稲葉リカの恋愛話は薄目で、結婚することも付き合うこともない。あくまで自衛隊の広報が話の中心である。

 

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