「まほろ駅前狂想曲」は、三浦しおんによるまほろ駅前シリーズの三作目であり最終作です。ちなみに、第一作の「まほろ駅前多田便利軒」は、直木賞受賞作品。
あらすじ
まほろ市は、東京都の南西部に位置し人口30万人の大規模ベットタウン。そこで便利屋を営む多田は、精神的に深い傷を抱えて日々を自分を罰する心持ちで過ごす。高校の同級生行天は、多田の事務所兼住居に居候している。行天は、変わり者で奇行が目立つ。子供が嫌いで第二作では、子供と同じ部屋で過ごしたために我を忘れて暴れた。
そんな二人が、子供を預かることになり、それをきっかけに新しい生活を生きようと思い始める。
感想
まほろ市は、東京都町田市がモデルとされていて、町田市を知っている者であればその駅前を思い浮かべながら読むとまほろ市の雰囲気をイキイキと感じることができます。
主人公の二人、多田と行天は、過去の出来事から前向きに生きることをやめてしまっていたが、子供を預かることをキッカケに前向きな気持ちを取り戻す。この部分を深読みすると一層楽しめます。
子供嫌いの行天が、どうやって子供を預かることを説得されたのか?(しぶしぶながら)なぜ行天は子供の世話をするようになったのか?この辺りは読みがいがあります。
多田は、自罰的な思考が強い男で、それが和らいでいく様子が心地よい。
このごろようやく、本当にまえを向いて歩き出せそうな気がする。明るいもの、あたたかいものを求める自分を許せそうな気がする。
このように、多田は、自分が幸せになろうとすることを許していなかった。それ故、亜沙子との恋を自分に許せなかったのですが、ようやく彼女との関係を進める気になったこと、亜沙子との関係の進展が、行天が子守をするきっかけとなったこと、この辺りの描写が好きです。
名言
「苦しくって、居場所がなくて、どうしていいかわからなかった。でも、どうにかなるもんだよ」
(中略)
「諦めたから。諦めてるうちに大人になって、家を出て自分で暮らしていけるようになって、結果オーライ」
これは、行天の言葉。行天が子供の頃、家に居場所がなくて苦しかった。それをどう解決したかについて語った部分。「諦める」というのが、解決方法。この部分を読むと、どんなに工夫や努力をしても解決できない事柄が存在することを、思い知らされます。
まとめ
三浦しおんの「まほろ駅前狂想曲」を読みました。自分が幸せになることを許せない多田と行天が、少し前向きになって進み始めた内容で。最終作にふさわしい内容でした。