漫画の「あせとせっけん」が抜群に面白かった。内容は、下の二人の恋愛物語である。
- 鼻の利き、匂いをかぎ分けることに秀でている香太郎
- 汗っかきで、自分の体臭にコンプレックスのある麻子
主人公 香太郎は麻子の体臭をいい匂いだと思うが、麻子はそれが信じられない。むしろコンプレックスを刺激されて戸惑う。そして、人付き合いの苦手な麻子が、香太郎の人柄に惹かれて、他人と深く接することを覚えていく*1。
さて、この設定は、日本的でなくフランスのような欧米的だ。日本人は、体臭を悪いものと捉える傾向が極端に強い。新型コロナウィルス感染症のワールドニュースを見ると分かるように、毎日風呂を入る国民は世界的に稀で、日本人くらいだ。また、香水文化に詳しい人はご存知のように、欧米人は体臭が強くそれをポジティブに捉える。
この漫画のプロットは、麻子と香太郎の成長物語だ。他人との間に壁を作って深く交流することのできない麻子が、香太郎と一緒に居たい、香太郎に甘えたい、自分のダメなところすらも香太郎に認めてもらえると信じられるようになる。一方、香太郎は、良いと思うことは、実行に向けて突っ走しる性格だが、麻子がその速度についていけないことを知り、他人の速度に合わせて待てるようになる。
麻子の弟 桂太の働くイタリアンレストランで、麻子はバケットのお代わりをするか、香太郎のバケットを半分もらうかというシーンで、バケットを新たに一つ食べるのは多すぎるため、麻子は「名取さん*2のを、半分分けて欲しいです」という。そこでの弟 圭太の言葉がとても好きだ。
姉ちゃんは昔からあまり我を出さない
おやつもおもちゃも順番も権利も
姉ちゃんが自分の欲しいものを主張する様を
俺は見たことがない
(中略)
欲しいものがあろうと嫌なことがあろうと
全部静かに我慢するんだ
姉ちゃんは
だけど今日
ちゃんと”欲しい”と言った
たった半切れのパンだけど
あんたに。。
(中略)
これがどんだけ姉ちゃんにとって
でかいことか。。。
あんたには自覚していてほしい
(第17話 3人の欲しいもの より)
最後の「あんたには自覚していてほしい」の文字が大きいことも原文のままだ。
麻子の性格と、弟 圭太の姉を大事にする気持ちが良く表れている。
この漫画の最大の良さは、絵だ。麻子のはにかむ表情、うれしい表情、そういった一つ一つが心を打つ。ブログに絵を貼るのはマナー違反だからできないが、これは好きだと思う絵がたくさんある。上のバケットのシーンで「名取さんのを半分分けて欲しいです」という麻子の絵も好き。
そして、登場人物は皆良い人で、敵役が出てこない。香太郎を筆頭に全員が良い人であることもいい。敵役なしでストーリーを作るのは難しいのだけど、麻子のコンプレックスを上手に活用してストーリーを進めているのも見事だ。
まとめ
漫画「あせとせっけん」(モーニングコミックス)が面白い。全巻、大人買いしてしまった。
匂いというフランス的なテーマを使って、香りに敏感な香太郎と体臭がコンプレックスの麻子の恋愛物語を描いている。この設定が上手だ。
この漫画の最大の良いところは、心に刺さる絵がたくさんあること。一度読んだ後、絵に注意して再読するのが楽しい。
ちなみに、この甘々なラブストーリを描いた作者の名前が「山田金鉄」と、お固いことも面白い。