kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



別冊NHK100分de名著 ナショナリズム:大澤真幸の解説する「想像の共同体」

 サッカーワールドカップの度ににわかサッカーファンが現れ、日本チーム 侍ジャパンのプレー一つ一つに一喜一憂するのは何故だろう?プレーしている選手と会ったことすらないのに、「感動をありがとう」などと言う。素晴らしいプレーに感動しているのではない、ブラジルやフランス、イタリアといった強豪国の方が日本より素晴らしいプレーをしている。「感動」を覚えるのは、「日本」チームだからだろう。これがナショナリズムだ。

 当たり前の中に、不思議が潜んでいる。日本チームを応援するのは当たり前だと思うかもしれないが、日本のナショナリズムが形成されたのは明治以降と言われている。つい最近のことだ。江戸時代以前は、江戸の農民が千葉の農民に共感を覚えるなどなかった。ナショナリズムが当たり前の私たちにとって、これは不思議だ。

 この不思議なナショナリズムを初心者向けに解説したのが「別冊NHK100分de名著 ナショナリズム」だ。

 

 ナショナリズムは複雑な概念で、学者の中でも定義が定まっていないため、本書では名著4冊を著名人が解説する形式をとっている。

 なかなか読み応えのある本であるため、各名著毎にメモを残すことにする。

 

想像の共同体:大澤真幸による解説

 解説の冒頭で、ナショナリズムと個人主義について述べられる。私は、これらを関連付けていること時代に目からうろこである。

近代社会は、ミクロで見れば、個人主義がその特徴です。そしてマクロにみたときには、ナショナリズムに特徴がある。個人主義とナショナリズムは、近代社会を成り立たせる両輪です。

近代社会において、個人主義とナショナリズムがともに生まれ、相互に強め合う

 

 そして、アンダーソンの有名な命題「国民とはイメージとして心に描かれた想像の政治共同体である」を引用し、これを詳細に解説していく。国民の特徴は、一生会うこともなく、具体的な関係(血縁など)なくても、想像の中の関係なのに、お互いが仲間だと強い同朋意識が成立している。

 

 この現象は、近代的(18世紀中頃以降)な現象である点も面白い。フランスなどのように王様が統治する国ではナショナリズムは発生しなかったことを意味する。

 「フランス革命により王政が倒れ民主制に移行した。これにより多くの人民を徴兵できることを周辺国も知り、西洋諸国はこぞって民主制へと移行した」という旨を別の本で読んだことを私は思い出す。ナショナリズムは力なのだ。

 

 ナショナリズムの定義・特徴を解説したあと、ナショナリズムが生まれる三つの形が紹介される。

  • 出版資本主義(国民の言語が出版により統一・広まりナショナリズムが形成される)
  • 植民地化(他国の支配の際に恣意的に決められた行政単位で、ナショナリズムが形成される)
  • 公定ナショナリズム(意図的な制度改革によりナショナリズムを形成する)

 

 日本は、明治政府が意図的にナショナリズムを形成した公定ナショナリズムの国だ。では、なぜナショナリズムを形成する必要があるかと言えば。

国民と言う意識を確立した国は、ヨーロッパで大いに成功します。軍事的にも強力ですし、経済的にも繫栄する。これを目撃した後発組の諸国の支配者たちは、自分たちの国も「国民」にしようと、意図的な制度改革を実行することになります。

 そして、明治政府は、プロシア・ドイツの制度を真似てナショナリズムを獲得した。戦時中のスローガン「進め一億火の玉だ」「お国のため」などはナショナリズムなしには成り立たない。

 

 さて、大澤真幸は「想像の共同体」の解説を終えた後に、自説を展開する。これが面白い。

 ナショナリズムが会ったこともない人との想像力による同朋意識だとすれば、その想像力は時間を超える。その例として、「無名戦士の墓」を挙げる。

 ひとつの国民が、「その人たちのおかげで現在の自分たちはあるのだ」と思えるような死者がおり、自分たちは「その人たちの願望を引き継いで実現しようとしているのだ」と思える。つまり、過去の人々と同朋意識を持っていることを指摘する。

 一方、未来の人々へとの同朋意識はどうかと言えば、日本人はとても希薄だと言う。

自分たちの後に来る未生の世代への異様な無関心。これが現代の日本人の特徴であるように思えてなりません。

将来世代のことを考えなくなり、今生の自分たちのことにしか関心が無い。それゆえ、人口問題・環境問題・安全保障・憲法問題など、現在生きている人が死んだ後に深刻化する問題に、無関心であると。

 

まとめ

 ナショナリズムが想像のものであること、それにも関わらず強烈な同朋意識をもたせること、それがつい最近発生したこと、日本では明治政府が意図的に導入したことが説明されている。

 ナショナリズムは想像に支えられているため、時間を超え過去と未来に同朋意識を広げ得るのは面白い。

 これを読んで私は、名著「サピエンス全史」で「虚構」がキーワードであったことを思い出した。虚構を創り出す能力が人類と他の動物を分け、虚構により人類は互いに協力することが可能となり、この協力こそが人類を生物界の頂点に押し上げたと。