スバルにとって初めてのストロングハイブリッド車(S:HEV)が発表されました。車種はクロストレックで、2024年10月17日から先行予約開始です。ハイブリッドシステムはトヨタから供給されたもので、ホンダのe:HEVや日産のe-powerと比べスバルの方向性に合っていると思います。また、久しぶりにアイサイトX搭載車種という点でも注目しています。
ここでは、S:HEV クロストレックについて、基本的な情報をまとめます。
スバルについて
スバルと言えば、水平対向エンジンと4輪駆動(4WD,シンメトリカルAWD)にこだわって車を作り続ける自動車メーカーで、その個性ある特性のためコアなファンを持ちます。
水平対向エンジンは、独特な構造ゆえに、製造コストや重量といった課題も抱えています。そのため、世界的に見ても採用するメーカーは限られており、スバルとポルシェが代表的です。以下に水平対向エンジンの利点と欠点をまとめます。
水平対向エンジンの利点
- 低振動:ピストンが対向して動くため、振動が相殺され、エンジンの振動が少ない。
- 低重心:エンジンの高さが低いため、車全体の重心が低くなり、走行安定性が高くなります。
- 長さが短い:同じ気筒数の直列エンジンに比べて全長が短く、エンジンルーム内のスペースを有効に使うことができます。
水平対向エンジンの欠点
- 横幅が広い:エンジンの横幅が広いため、エンジンルーム内のスペースが制約されます。
- コストが高く、重量も大きい:水平対向エンジンはエンジンヘッドが二つ必要なため、直列エンジンと比べ製造コストが高く、またエンジン重量も重くなる傾向があります。
- オイル漏れのリスク:シリンダーが水平に配置されているため、オイル漏れが発生しやすい。
また、4輪駆動(4WD)にも利点と欠点があります。以下にまとめます。
4輪駆動車(4WD)の利点
- 悪路での走行性能:4WDは全てのタイヤに駆動力を伝えるため、雪道や砂利道などの悪路でも安定した走行が可能です。
- 走行安定性:全てのタイヤが駆動することで、車両の安定性が向上し、特に高速道路やカーブでの走行が安定します。
- 発進力:4WDは発進時のトラクションが優れており、滑りやすい路面でもスムーズに発進できます。
4輪駆動車(4WD)の欠点
- 燃費が悪い:4WDは2WDに比べて車両重量が重く、エンジンからの動力を全てのタイヤに伝えるため、機械的ロスも多く燃費が悪くなる傾向があります。
- 車両価格が高い:4WDは複雑な駆動システムを持つため、2WDに比べて製造コストが高く、車両価格も高くなります。
- メンテナンスコスト:4WDは駆動系の部品が多いため、メンテナンスや修理のコストが高くなることがあります。
水平対向エンジンと4輪駆動(4WD)にこだわるため、スバルの車は、走行性能が高く、特に雪道や悪路に強いことをウリにした比較的高額な自動車が多い。
ストロングハイブリッド(S:HEV)クロストレックについて
S:HEV クロストレックの主な諸元(プロトタイプの社内測定値)は、以下です。*1
- エンジン:最高出力118kW(160PS)/5600rpm、最大トルク209Nm/4000-4400rpm、水平対向4気筒2.5リッター
- 駆動用モーター:最大出力88kW(119.6PS)、最大トルク270Nm
- 駆動用バッテリー:総電力量1.1kWhのリチウムイオン電池
ここで注目なのは、エンジンの排気量が従来のクロストレックが2.0Lだったものを2.5Lに増やしたことです。理由は公表されていませんが、エンジンの排気量増は、以下のようにハイブリッドシステムとの組み合わせのためだと考えられます。
- ストロングハイブリッド化によって車重が増し、さらに1タンクで1,000Kmの走行距離を実現するために燃料タンク容量を63Lに増やしたため車重が増したため、従来の2.0Lエンジンではパワーが不足したため。
- トヨタからの供給を受けているハイブリッドシステムがTHS-2ではなく、マルチステージハイブリッドシステムであるため。マルチステージハイブリッドシステムは、エンジン性能を最大限に引き出すことができ*2、スバルのスポーティなイメージに合致する可能性があります。
注目点
S:HEV クロストレックの注目点を以下にまとめます。
- 燃費より走りの味付け:ネットの情報を見ると、S:HEV クロストレックの燃費はそれほど良くありません。カタログ値で20Km/Lに届かないでしょう。その分、エンジンパワーを活かしており走行性能は高いと思います。この特徴がユーザにどう受け止められるかについて楽しみにしています。
- 燃料タンクの大型化:スバルは、航続距離の拡大をアピールポイントとしていますが、燃料タンクの大型化は車両重量増加にもつながるため、さらなる燃費性能向上が課題となるでしょう。この辺りをユーザがどう受け止めるか注目しています。
- エンジン排気量増加:エンジンの排気量増に伴い、自動車税などの税金負担が増加します。ユーザーがこれをどう評価するかは、今後の販売動向に大きく影響するでしょう。
まとめ
スバル初となるストロングハイブリッド車 S:HEV クロストレックが発表されました。
ストロングハイブリッドは走行用モータが追加されるため、相対的にエンジンの重要性が下がります。そのため、これまで水平対向エンジンにこだわってきたスバルにとっては、ストロングハイブリッド車のコンセプトをどう位置付けるかが重要です。今回のコンセプトは、「燃費よりも走りを重視、それでも1タンクで1,000Km走行可能」に思います。ストロングハイブリッド車としては、まだまだ未成熟に思える点がありますが(エンジンが低燃費向けに最適化されていない、重くレスポンスの悪いプロペラシャフトを使用しているなど)、今後の方向を見定める上で、この車の販売成果とユーザからの反応はとても大切です。そういった意味でも私は今回のクロストレックに注目しています。
皆さんはS:HEV クロストレックのどこに魅力を感じますか?
(冒頭の画像はAI(Microsoft Designer)で自動生成)
*1:スバル、航続距離1000km超え「ストロングハイブリッド」を新開発 12月発表予定の「クロストレック」に初採用 - Car Watch
*2: 【新型クラウンを発売 | トヨタ | グローバルニュースルーム | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト】によれば、「エンジンと二つのモーターに加え、有段ギアを組み合わせることで、あらゆる車速域からのアクセル操作に応える駆動力を実現しました。従来はエンジン最高出力を使用できる車速領域が約140km/hからでしたが、本システムでは約43km/hから使用可能になりました。」