kotaの雑記帳

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三菱商事の撤退から考える、日本の洋上風力発電推進のスジの良し悪し

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 三菱商事が洋上風力発電事業から撤退しました。地球温暖化防止やエネルギー政策に関心のある方にとって重要なニュースですので、背景と今後の見通しを整理します。

三菱商事 洋上風力からなぜ撤退?今後どうなる?見通しは?【Q&A】 | NHK | ニュース深掘り

 

背景:日本のエネルギー政策と洋上風力の位置づけ

 大きな影響力をもつ、政策の観点から整理します。

 日本政府は「第6次エネルギー基本計画」に基づき、2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減する目標を掲げています。そのための電源構成(エネルギーミックス)の目標は以下の通りです。

2030年度 電源構成(エネルギーミックス)目標

電源種別 割合(目標) 補足ポイント
再生可能エネルギー 36〜38% 「主力電源化」を掲げ、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスを最大限導入
原子力 20〜22% 安全性確保を前提に、依存度を抑えつつ一定の比率を維持
LNG火力 20%程度 脱炭素化(高効率化・水素・アンモニア混焼)を推進
石炭火力 19%程度 可能な限り削減しつつ、安定供給のため一部維持
石油火力 ほぼゼロ 非効率石油火力はフェードアウト
水素・アンモニア発電 約1% 将来のゼロエミッション電源として社会実装を加速

 

 再エネの中でも、太陽光は中国メーカーが市場を席巻し、日本メーカーのシェアは約15%(2024年時点)にとどまります。水力・地熱・バイオマスは伸びしろが限られるため、風力発電が国内産業育成の切り札と位置づけられています。

 

2030年度 再生可能エネルギー内訳(目標)

上記電源構成の表の中で、再生可能エネルギーの項目を細分化すると以下のようになります。

再エネ種別 割合(目標) 補足ポイント
太陽光 14〜16% 屋根置き・メガソーラー・ペロブスカイトなど多様な形態で拡大
風力(陸上+洋上) 5% 洋上風力を「切り札」と位置づけ、長期的には大幅拡大を想定
水力 11% 既存ダムの効率化や小水力の活用が中心(大規模新設は限定的)
地熱 1〜1.1% 世界有数の資源量を持つが、開発には環境・温泉権益調整が必要
バイオマス 5% 木質・廃棄物・農業残渣など多様な燃料を活用

 

風力発電における日本政府の狙い

風力発電の重要性

 日本政府にとって風力発電は、今後の産業育成の観点で重要です。

 太陽光発電は、主要部品の太陽光パネルの販売を中国メーカーが占めており、日本メーカーの勝ち目がありません(日本国内における日本メーカーの発電シェア率は15%程度(2024年))。また、水力、地熱、バイオマスは今後の伸びシロが少ない。

 このため残った風力発電が重要となります。国内で風力発電を立上げ、これにより部品・施工・管理などの国内事業者を育て、海外に風力発電事業を輸出する、というのが日本政府の描く筋書きです。

 

三菱商事が担うはずだった事業

 洋上風力は、漁業や航路との調整が必要なため、国が「公募占用制度」で事業者に海域の占有権(30〜40年)を与えます。


 三菱商事は2021年の第1回公募(ラウンド1)で以下の3案件を落札しました。

菱商事連合の落札価格(FIT単価(20年間固定価格)))
海域 売電単価(税抜) 容量(概算) 主な特徴
秋田県 能代市・三種町・男鹿市沖 13.26円/kWh 約0.48GW 着床式風車採用、103基中一部は港湾近接
秋田県 由利本荘市沖 11.99円/kWh 約0.82GW 3案件中で最安値、全国的にも異例の低価格
千葉県 銚子市沖 16.49円/kWh 約0.39GW 首都圏近接で送電距離短め

 

 この価格設定は当時の上限(約19円/kWh)を大きく下回り、価格評価で優位を確保しましたが、資材・建設コスト高騰には脆弱でした。

 

撤退の理由

 報道によれば、主な要因は以下の通りです。

  • 2022〜2025年に鉄鋼・ケーブル・風車価格がほぼ倍増
  • 円安・金利上昇・インフレで建設費が当初見積の2倍超に膨張
  • 洋上風力はLCOE(均等化発電原価(Levelized Cost of Electricity))が高く、特に初期投資(CAPEX)負担が大きいため、コスト上昇に弱い

 

 当初は技術進歩によるコスト低減(将来的に7円/kWh程度)を見込み、低価格入札が可能と判断していましたが、現実は逆行しました。

 実際、政府の資料にも将来的に7円/kWh程度で採算がとれることが示唆されています。

発電コスト低減が加速すると予想されていた
資源エネルギー庁資料「洋上風力政策について(令和4年10月6日)」より

 

将来は7円/Kwhで採算が取れると想定していた
資源エネルギー庁資料「洋上風力政策について(令和4年10月6日)」より

 

 

政府の姿勢と今後の課題

 政府は撤退を受けても洋上風力推進の方針を維持しています。その理由は、

  • 風力発電所の建設投資による地域経済振興
  • 国内技術の育成と海外市場獲得



一方、欧米でもコスト高騰による撤退が相次いでおり、日本は風況や地形面で不利(夏季の風力不足、遠浅海域の少なさによる高コスト浮体式依存)という構造的課題も抱えています。

 

 以下、経済産業省資料「洋上風力発電に関する国内外の動向 取組の追加・拡充について(2025年7月23日)」より引用します。

世界では洋上風力発電からの撤退が相次いでいる

 

日本は頑張る(技術とサプライチェーンを整備し、グローバル市場を獲得する)

 

まとめ

 千葉県の熊谷知事は 「県も地元もさまざまな準備をしてきたが、振り回された形だ。撤退という結論だけでは済まされず、会社としてどう責任を果たしてくれるのか話を聞きたい」と述べ、地域経済への影響を懸念しました。(【三菱商事社長 洋上風力発電の撤退で千葉県知事に謝罪 | NHK | 千葉県】)。この言葉からも、国の洋上風力発電の公募が地域経済振興を意図したものであったことが伺えます。

 採算が取れない事業から撤退できたのは民間企業だからこそであり、政府系に近い電力会社では難しかった可能性があります。


 一方で、日本政府は不利な条件下でも技術を蓄え、世界市場での競争力を高める戦略を描いています。その成否は、今後の政策設計と市場環境の変化にかかっています。

 

付録:日本が洋上風力発電に向かない理由

【三菱商事撤退】洋上風力発電で何が?/なぜ「罪深い」と言われるのか/そもそもなぜ破格で入札?/再エネ業界への逆風【PIVOT TALK BUSINESS】によると、

  1. 日本近海の風は風力発電には適さない(夏の風が少ない)、
  2. 遠浅の海が少ないため、非常にコストの高い浮体式洋上風力発電方式を使わざるを得ない。

日本は欧州と比べ風が悪く、遠浅の海が少ない