kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



日本のデザイン: エンジニアとデザイナーは結構似ている

 私のようなエンジニアとっての仕事には、どんな技術や製品を開発すべきかという川上の仕事から、定められたスペックや機能を実現するための設計をする川下の仕事までさまざまである。スティーブジョブス元アップルCEOがもてはやされたのは、川上の仕事において良い仕事をしたためである。
 最近、デザイナーと呼ばれる人の中にもこの川上の仕事をしている人たちがいるようだと気づいた。佐藤可士和さんは有名だが、他にも様々な方が活躍していそうに思う。そういった人たちの、考え方を知ることはエンジニアにとっても役に立つはずだ。そう思って、読んだ本が「日本のデザイン――美意識がつくる未来 (岩波新書)」である。著者の原研哉さんは、武蔵野美大の教授で、長野五輪の開・閉会式をデザインした人である。

 現在の車の延長ではなく、未来の人間の欲望に影響力を持つリアルな移動体の可能性をいつかヴィジュアライズしてみたいと僕は考えている。仮想と構想、そしてその可視化こそがデザインの本領だと考えるからだ。

(「移動」p40より)
 上を読むと、用語は独特であるが、考えていることはエンジニアと全く同じに思える。「人間の欲望」=「ニーズ」、「仮想と構想」=「仮説の設定と展開」、「可視化」=「仮説の検証」のように用語は少し異なるだけである。

パリ発の流行は、トレンドセッティング委員会なるものが、計画しプロデュースする。流行を「書いて」いるのは、トレンドライターと呼ばれる。世界のクリエイションの動向に常に目を光らせている感度と地検の豊富な才能であるが、この委員会には、繊維産業会の重鎮や、行政の関係者も加わっている。
(中略)
 そういうわけで、流行のシナリオは、きちんと大人の計算としてフランスやイタリアの繊維産業の生産プロセスの中に、まさに織り込まれているのである。
(中略)
 これがファッション情報の流れに上流と下流ができる所以である。だから、もし日本にずば抜けて優れたファッションデザイナーがいたとしても、日本で仕事をしていたのではその仕事は世界に知られることはない。

(「未来素材」p176より)
 この部分は、ファッションにおける流行が、自然発生的に起きるのではなく、トレンドセッティング委員会により計画され、繊維も含めた業界全体でプロモートされていることを説明している。このあたりも、エンジニアリング業界と似ている。技術ロードマップなるものが権威のある団体により策定されており、それを見ながら今年の開発物を決めていっているためだ。その類似構造故に、紡ぎだされる結論もエンジニアリング業界に当てはまる。

 さて、ひるがえって日本の先端繊維である。日本先端繊維は、「世界で評価される」わけにはいかない。なぜなら、すでに作られたファッション情報の流れに乗るということは、フランスやイタリアの産業の隆盛を加速させることと同義だからだ。

(「未来素材」p180より)
 この文章からは、日本のパソコンメーカが、頑張って「世界に評価される」パソコンを作っていった結果、結果的にインテルのパソコンのプラットフォーム戦略を強化・加速させ、いまではパソコンメーカが全く儲からなくなっている現状を思い起こさせる。

求めるべきは「評価される」ことではなく、世界で「機能する」ことだ。まずは日本独自の新しい繊維情報の流れを主体的に生み出していくことである。そして「ファッション」からはむしろ程よい距離を置いて、衣類に減芸されない、生活空間を通して人間を一回り大きく含有する新たなクリエイションの領域を生み出さなくてはならない。

(「未来素材」p180より)
 今の利益構造の中で頑張るのではなく、利益構造そのものを変えるための工夫が必要だと、言っている点はエンジニアリング業界で言われていることと同一である。



 これまでエンジニアリング業界にも通じる点について述べてきたが、デザイン業界は独特だと思う点についても述べておく。まず本書を通じて、著者の意見に対する根拠が示されていない。根拠を示すかわりに、そう思うに至ったきっかけや経緯が示されるのみである。この点については、ひどく違和感がある。根拠を示さなければ、他人に意見を理解させるのは非常に難しい。デザイナーは、それでよいの? という疑問が違和感の根っこにある。
 ただし、エンジニアリングだって開発したものがマーケットニーズを捉えて、ヒットするかどうかは製品化するまでは分からない。そういう意味ではエンジニアリングでの「根拠」というものも、いい加減なものだとも言える。


 まとまりがなくなるが、たの面白いと思う部分についても列挙しておく。

 日本は多くの工業製品を世界に輸出する工業国であるが、その生産物がいかなる文化を育むかという視点でものを考え、表現することが少ない。

エンジニアは、まったくこういうことを考えないですね。取り組んでいるものの性能を上げることは考えるけど、その結果がどうなるかは深く考えない。


 日本文化について述べている個所を読んでいて、日本はアメリカの影響を強く受けていて、文化的にもどんどん西洋化していっているが、靴を脱ぐ習慣は強く残っていることに気づいた。これは何故なんでしょうね?なにか日本人の奥深くにある価値観がそうさせているのでしょうけど、その価値観ってなんでしょうか、考えてみたい。

 情報デザインのゴールはそれを用いる人々に力を与えることである。

 デザインにもゴール設定があるんだとこの文章からわかる。

まとめ

 他分野から学ぶことは多い。今回はデザインの本を読んだ。デザインとエンジニアは案外似ていることが分かった。デザイナーの使う発想方法やフレームワークは、エンジニアにも役に立つのだと感じる。

日本のデザイン――美意識がつくる未来 (岩波新書)

日本のデザイン――美意識がつくる未来 (岩波新書)