強烈な個性を持つ男、陣内。盲目の紳士、永瀬。大いなる凡人、武藤。サブマリンに登場する キャラクタのお披露目的小説がチルドレン。
短編集だけあって、各ストーリーはあっさりしていて軽い。面白いトリックを中心にストーリが組まれており、あっさりとスムーズに読ませる筆力に感心する。
続編のサブマリンへの導入編にも感じられる。
本書に収められている「イン」は、盲目の永瀬の1人称でつづられた短編。小説の書き方には3人称と1人称がある。1人称は、主人公の視点を通してストーリを展開していく手法だが、盲目の主人公の視点とは何かを想像すれば、その面白さが分かる。
ひのき、だろうか。
ベンチを触り、まっ先にそう思った。
「イン」の出だしである。盲目の主人公は、ただ座るという動作においても、まずベンチの高さを手で触って確認することが読み取れる。
盲目の永瀬は匂いや音や風に敏感である。
彼女が、がさごそと手を動かす。小さく風が起きた。ハンカチを広げているんだろう。
永瀬は、隣でハンカチを広げる風を感じ取れる。この力を使って、彼女のバックが置き引きされそうなことに気づく。
そんな匂いや音や風に敏感な永瀬だが、最後に恋人の優子にからかわれる。
いつの間にか当たっている日差しの暖かさに、気が緩んでいたに違いない。心地よさに任せて、一息に飲み込んだ。
それから、むせた。
「これ、コーラだ」せき込みながら、優子に訴える。僕はアイスコーヒーのつもりで飲みこんだのに、炭酸が飛び込んできた。
優子は声を出さなかったが、きっと口を開けて、笑っていたんだろう。してやったり、という空気が漂っていた。
さすがの永瀬も、恋人優子には気が緩んているという微笑ましさを象徴するエピソードで小説が終わる。ハッピーエンドだ。