kotaの雑記帳

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「陽気なギャングが地球を回す」(伊坂幸太郎)の感想:ちょっとズレた特殊能力な銀行強盗

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 伊坂幸太郎の本をまとめて10冊ほど読みました。順次、感想を書いていっています。

 ここでは、「陽気なギャングが地球を回す」について感想を書きます。これは、4人の銀行強盗グループ(ギャング)が、トラブルに巻き込まれてそれを解決するまでの物語です。

 この本は、2003年に発行されたベストセラーで、小説としてもシリーズ化されています(続編は「陽気なギャングの日常と襲撃」「陽気なギャングは三つ数えろ」)。また、映画化もされていて当時は結構な人気作品だったようです。

 

あらすじ

 夫々に特殊能力をもつ4人は、銀行強盗グループだ。ある日、銀行から金を奪って逃走している途中で、何者かに金を強奪されてしまう。相手は、かなりヤバい奴ら。もちろん警察には頼れない。相手に報復すべきか、それとも金はあきらめるべきか。仲間内でも意見は割れる。何か手がかりを求めて調査を続けていると相手の一人は死体となっており、ますますヤバさが増していく。

 

感想

 伊坂幸太郎の軽い文体で描く、銀行強盗グループはタイトル通り陽気な性格に感じられます。それは、ちょうどアニメのルパン3世に似ています。また、登場人物それぞれが特殊能力をもっているのも、ルパン3世と同じ。ただし、その特殊能力が銀行強盗に役立つものではない点は、ルパン3世とは異なります。

  • 成瀬:他人の嘘を100%見抜ける
  • 響野:でたらめ含め延々と話をする演説の達人
  • 雪子:1秒単位で時間を測定する正確な体内時計の持ち主
  • 久遠:スリの天才

 だいたい響野の演説の能力なんて銀行強盗には全く役に立ちませんし、久遠のスリの能力だって役に立ちません。ま、久遠の能力は、銀行強盗には役立ちませんが小説のストーリを進めるには大活躍するのですが、響野に至ってはそれにすら役に立ちません。

 ただ、響野のでたらめ話は、まさに「陽気な」雰囲気づくりにはピッタリです。例えば、次のようなセリフを響野は随所に放つ。

「馬鹿みたいな話というのは時々現実に起きることがあるから、馬鹿にできないんだ」

(210ページより)

銀行強盗というシビアなタスクを実行する際には、お互いピリピリと張り詰めるのが普通でしょう。だって、誰かがミスれば自分も警察に捕まって人生終わりますから。でも、そんな緊張感を感じさせずにお互いに軽口を言い合う様子には、互いに信頼している様子が感じられます。ちょうど、ルパンと次元大介のように。

 

 

 さて、この小説は3人称1視点で書かれています。3人称1視点では、その視点の人物以外の場所で起こっていることや、その人物以外の細かな心理描写はできないのですが、この小説では、節毎に視点を入れ替えることで総合的にストーリーを描写しています。こういう書き方をする著者の手腕は素晴らしい。

 ところで、この小説でストーリの中心にいるのは、成瀬です。成瀬の視点で描かれている部分は注意深く読むと、この小説を一層楽しめるでしょう。特に、「成瀬IV」の節では、成瀬の賢さが良く描かれています。特に「慎一はどうした?」と訊いて、響野が「パチンコ屋に残った。警官に説明するらしい。賢い奴だ。」と答えたあとの成瀬の言葉は、この小説の重要ポイント。

「慎一はその謎の男に連れて行かれたのか?」

(245ページより)

 

まとめ

 伊坂幸太郎の「陽気なギャングが地球を回す」を読みました。

 銀行強盗というシビアなタスクを行うにもかかわらず、お互いに軽口を言い合う様子はルパン3世を見ているようです。

 テンポの良いストーリ展開と、アッと言わせる結末の爽快感はさすがベストセラーです。

 

陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)

陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)