kotaの雑記帳

日々気になったことの忘備録として記していきます。



「あの家に暮らす四人の女」(三浦しおん)の感想:独身女同士の距離感

 日本では、結婚した人の90%が恋愛結婚ですが、30代女性の約30%が独身、40代で約25%が独身です (男女共同参画白書令和4年版より)。また、独身女性の結婚したくない・してもしなくてもどっちでもいいという割合が年代とともに上がっています。つまり、恋愛戦線から撤退する人が、年代とともにどんどん増えています。

 

 このリアルを念頭に読むと、三浦しおんの「あの家に暮らす四人の女」は一層面白い。

 

 この小説は、谷崎潤一郎の小説「細雪」の現代版と言われますが、そうではなく吉田秋生の漫画「海街diary」の40代女性版と思った方が面白いでしょう。

 

 東京杉並区の150坪の土地に建つ古い洋館に4人の女が暮らす話で、その家の娘 牧田佐知は37歳独身。杉並区の公示地価は一平方メートル当たり571,000円ですから、土地だけで2億8千万円以上、佐知は資産家の娘と言えるでしょう。しかしながら、佐知の生活は地味で、交友関係もごく狭い、恋に憧れるものの出会いもない。

 同居人の谷山雪乃は、地方から東京に出て一人暮らし、佐知と同じ37歳独身。故郷で37歳独身女は終わっていると言い、東京で一人で生きていくためには勤め先は失いたくないと思っています。彼女は、結婚はしないと決めています。

 他に、20代の恋多き上野多恵美と、お嬢様気風の母 牧田鶴代の4人で暮らしています。

 

 結婚を望まない雪乃の気持ちになって、佐知の心の動きを読むのが面白い。

 佐知は自分を分かってくれる相手がおらず孤独です。自宅で刺繍教室を開き佐知は稼いでいるが、他人からはそれを趣味の延長と捉えられ、自分が刺繍にどれほど情熱を傾けているか理解してもらえない。少し長いが引用します。

 つまり、佐知は寂しかった。ほとんど全身全霊をこめて刺繍に取り組んでいるからこそ、「本当に私の刺繍を分かってもらえているのか」と常に不安だった。ハンカチやブラウスやバックのワンポイントとして、ただ単に「あら、かわいい」で済まされてしまうのは、佐知にとって時に耐えがたいのであった。そのワンポイントに、どれだけの時間と思考と情熱を傾けたか、誰か一人でも想像してくれる人はいるのだろうか。

 

 自分を理解してくれる男性を求める佐知に対して、雪乃は理解されることをあきらめているように描かれます。仕事ができるが、顔を忘れられることの多い雪乃は、能力はあるが個性のない存在、あてにされるが男から求められない女として描かれています。そのため、雪乃は、恋愛に対して距離を置き、そもそも人間同士は理解できないのに、恋愛関係になると相手に理解を求めるのが不幸だと言う。

 

 こんな風に考え方の違う4人が同じ家に暮らし、仲良くやっていくお話です。10代、20代女子の「仲良し」のべったりした距離感とは違う関係がそこにあります。この距離感が上手く描かれています。