伊坂幸太郎の小説を十冊ほどまとめて読みました。順次、感想を書いていっています。ここでは、「オーデュボンの祈り」の感想を記します。
本作は、伊坂幸太郎のデュー作で、これは第5回新潮ミステリークラブ賞を受賞しています。デビュー作だけあって、ストーリー展開や表現に粗削りな印象を受けます。例えるなら、長編漫画の第一巻を読んだときに絵が出来上がっていなくて違和感を感じるのに似ています。
それでも、伊坂幸太郎らしい特徴を見ることができて微笑ましい。例えば、三人称多視点でストーリを展開していく文体、細かい伏線を張る構成、小さな要素が集まって複雑なシステムが出来上がっているという考え方など。また、人でないものが意思を持ち、言葉を話す設定は「ガソリン生活」に通じています。
一方、一見関係の無さそうなシーンやエピソードがエンディングに向けて一つに収束していく展開は、まだ粗削りです。きっと、小説に盛り込まれている要素が多すぎるのでしょうね。この辺りも新人らしくて微笑ましい。
登場人物
- 伊藤:自暴自棄になり強盗に入ったものの失敗し、逃走中に気づいたら見知らぬ島にいた。
- 優午(カカシ):カカシでありながら、人の言葉を話す。カカシは何でも知っており、未来についてすら知っているが、未来について島の人に話すことはない。
- 日比野:伊藤の世話を焼く、小説のストーリを展開させる案内人。
あらすじ
伊藤が連れてこられた島は、江戸時代より鎖国をしており、誰からも知られていない。この島には何か欠けているものがある、という言い伝えられている。それを、島外から来た者がそれをもたらすと信じられている。
この島には何でも知っているカカシが立っているが、ある日カカシはバラバラにされて殺された。カカシの知識に頼っていた島人は動揺しつつも、これまでの生活を続けていく。
島に欠けているものとは何か?カカシは誰にバラバラにされたのか?この謎を伊藤は解いていく。
感想
次の一文から小説は始まります。これを読んだとき「若いなぁ~」というのが私の印象。肩に力が入っているという感じがして微笑ましい。
胸の谷間にライターを挟んだバニーガールを追いかけているうちに、見知らぬ国へたどり着く、そんな夢を見ていた。
冒頭で伊藤を訪れた日比野の言葉が、一読目には分からなかった。この文章は何を意図しているの? よくわからないと引っかかった。島に欠けているモノを伊藤が持ってきたのではと日比野が期待しているということに、二読目で気づきました。この小説は二度読んだ方がよくわかりますね。
「何か持ってきたものはあるのか?」玄関を出たところで、日比野は僕の手を見ながらまず言った。
何でも知っているカカシは、島に欠けているものが何かを知っています。島人はそれが何であるかカカシに繰り返し尋ねたでしょう。しかし、カカシは未来のことは島人には話さない。そのため、島人の受けた失望感の大きいことは想像できます。カカシは良い人として描かれているので、その失望感を受け止めることはカカシにも辛かったのではないでしょうか。
このようにカカシの心情を推し量りながら読むと、一層面白い小説だと思います。
さて、この小説はカカシにとってハッピーエンドだったのでしょうか?次のシーンをどう解釈するかによって、意見が分かれると思います。みなさんはどう思います?
“ そこにふわりと、目の前に鳥が降りてきた。名前も知らぬ、その灰色の鳥は、ふわりと羽根をしまうとそのままカカシの腕に乗って見せた。
「あ」と少年は思わず声を上げていた。
「あ」と草薙と百合も同じ反応をする。
しばらくして、「おかえりなさい」と三人のうちの誰かが言った。
(449頁より)”
まとめ
伊坂幸太郎の小説「オーデュボンの祈り」の感想を書きました。
鎖国をしていて誰も知らない島に、カカシがいて、この島に欠けているものを待っている、という不思議な小説です。
伊坂幸太郎のデビュー作らしく、若々しい箇所が随所にあって微笑ましい。