自動車会社マツダで、SKYACTIVEの開発を主導した人見 光夫さんの本。プロジェクトXのように根性でやりきった話でもなく、スーパーマンがテクニックを駆使した話でもない。組織風土が悪い中で立ち上がるためのコツが秘められた本である。
- 作者: 人見光夫
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/02/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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忙しいと人と組織は保守的になる
マツダは自動車会社としては小さな会社。余裕がなく商品開発部はトラブル対応に追われて忙しい。忙しいと人は保守的になる。トップから言われたことしかやらない。新しいことには、リスクが高いと理由を付けてやらない。
保守的な人が集まると保守的な組織になる。何かうまくいかなくなると、トラブル対応で忙しくなり、組織は保守的になり、新しいことをやらないのでうまくいくきっかけをつかめずジリ貧になっていく。どこにでもある構図だ。
この風土を変えたのは、人見さんではなく、当時の上司の藤原清志さんだという。彼の手法は、消極的な気持ちや、思いつきの意見を言う人には滅茶苦茶怒る。少しだけ改善するようなちまちました改善は相手にせず、理想を掲げてそれに向かって進んでいるのでなければOKしない、というもの。
忙しくてもうこれ以上やりたくない、と思うのは人情。その自然な気持ちを否定するこの態度は厳しい。しかし、ブレない考え(理想)を考えるというのは、忙しくてつい保守的になる気持ちにブレーキをかける手法としては、有効なのだと思う。
問題のヘッドピンを探せ
「問題の根っこ」とか「根っこの問題」という言葉がある。分かったようで分からない言葉だ。
人見さんは、ヘッドピンと呼んでいる。ボーリングのピンの先頭にあるのがヘッドピン。このピンを倒すと、後ろのピンがどんどん倒れていくイメージ。課題がたくさんあるとき、それらを個々に解決しようとせず、まず課題を整理していく。一つの課題を解決すると、他の複数の課題も解決できるような課題を探す。これがヘッドピン。もちろん、ヘッドピンを解決するのは難易度が高い。しかし、課題が一つの方が、人は集中できる。
この人が集中できる、ということが組織で課題解決するためには大切だ。
組織のメンバーには、各自の専門知識で、なんとかその課題を解決するよう依頼する。直接解決できなくても、風が吹けば桶屋が儲かる式になんとか頭をひねってもらうよう頼む。
組織のメンバーの力を合わせるというのはこういうことなんだろうと思う。
ヘッドピンを解決するとは、これに影響する因子の中で自分たちがコントロールできるものを列挙することから始める。
ヘッドピンが分かったら、これを制御できる因子を探す。
状況が悪くなっても問題をまず集約する
例えば、3つの問題で囲まれていることで、問題の範囲が決まっているとする。ここであるソリューションを施すと、三つのうち二つまでは解決するが、一つだけはもっと厳しい状況になってしまうとする。
それでよいんどえある。より厳しくなっても、三つの問題を考えるより、一つに集約した方がいい。一つのに集中したほうが答えは必ず見つけやすくなるからだ。
上は、人見さんがディーゼルエンジンの開発をした時の話である。ディーゼルエンジンの問題は、
- 燃費の向上
- 排気ガスをきれいにする
- エンジンの軽量化・コスト削減
であった。これを一挙に解決するヘッドピンが、低圧縮比化であった。しかし、低圧縮比化すると、寒い所で始動しない暖気中に失火するという別の問題が発生する。
低圧縮比化が良いことは誰でも知っている。しかし、寒い所で始動しない問題が起こるので、二の足を踏む。そして、上の問題を個々に解決しようとして疲れてしまう。
まずは、低圧縮比化で上の問題を解決してしまって、寒い所で始動しない問題一つに絞った方が良いということだ。
この部分は、私自身目から鱗でした。
Zoom Zoom戦略
人見さんの所属する先行開発部門は、マツダの中では期待されていなかった。商品開発部が忙しい中で、楽でいいねと思われるような部署だった。
当時のメンバーの不満をこう述べている。
・本部内の上層部や商品開発部門に期待されていないと感じる疎外感、効能感の無さ
・パワートレインの将来に対する展望が見えない
・一部の上司の理解のなさ、独断専行
実際、エンジン開発をしてきた人見さん自身次のように述べている。
エンジンの将来などには何の期待もされていなかったのだろうかと疑ったものである。考えてみれば、いまだかつて「エンジンで一番になれ!」という号令がかかったこともなかった。
こんな疎外感の中でも、会社の戦略(Zoom Zoom戦略:走る喜びの提供を大事にする戦略)を人見さんは知っていて、
燃費が良いだけの車でいいならマツダである必要が無い
と思ったところはさすがである。気持ちよく走ることと高燃費の両立を狙った点は、まさに上述の理想を描くというものだ。
まとめ
本書には、”ヘッドピン”をどうみつけたか、それをどう解決したかが生々しく書かれている。ここは読みごたえがある。ひらめきで問題を解決するのではなく、地道にしかし効率よく答えを導く様子が描かれている。