森山大道の写真は、強い。
テクニックではない何かが、強い写真を撮ることを可能にしている。「路上スナップのススメ」に、その一端を垣間見ることができる。この本はテクニック本ではない、心構えの本だ。
- 作者: 森山大道,仲本剛
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2016/07/29
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (1件) を見る
量のない質はあり得ない
歩け、とにかく歩け。それから、中途半端なコンセプトなどいったん捨てて、なんでもかんでも、そのとき気になったっモノを躊躇なくすべて撮れ
(「序章 スナップとはなにか」より)
とにかく撮影するときはコンセプトだとか、テーマだとかは頭から外せ、と僕は言ってきた。
(中略)
何か、その時の社会状況みたいなことからテーマやコンセプトを、らしく決め込んで撮影したところで、しょうがないと思う。そんなことより、とにかく全身で感じたものを、なるべく選別することなく撮っていく。
(「砂町」より)
商店街を撮るときは必ず往復すること。僕は必ずそうしている。それは、域と帰りでは、だいたい光線が逆になるから。見えてくるものが違うんだよ。同じ道でも。逆光で見てさほど面白く見えなかったものでも、巡行で見れば面白かったり、、。
(「砂町」より)
コンセプトやテーマと言った予め作った決め事に従って被写体を選ぶのではなく、自分の感性にひっかかるものをとにかく探せ。感性に引っかかったものはすべて撮れ。そんなメッセージが感じられる。
それは、漠然と物を撮るのではなく、「こだわりを持って撮れ」ってことだけれど。
(中略)
最近は、街中でカメラを持って写真を撮っている、学生らしき若者たちを多く見かける。まあ悪くはないんだけど、そうやってただ漠然と撮影していても、きっと本人は分かっていないと思う。一体、自分は何をやっているんだということや、何を撮りたいんだということが。
(「砂町」より)
ただ数を撮れば良いのではない。よく見てなんでも写す。よく見て写すうちに自分が何を撮りたいのか分かってくる。よく見て全て写す。
謙虚さ、あるいは撮り手の無力さ
自分の欲望が発する必然の投網を打って、偶然という獲物をからめとること。
(「砂町」より)
スナップとは何か? 森山大道の答えがこれである。撮り手には必然のタイミングでシャッターを押す。しかし写真には偶然の産物が写る。
シャッターを押しちゃった瞬間にフィルムに焼き付いたものは、その瞬間からどんどん本人の意思を離れていく。もちろんシャッターを押すモメントは、その人間の、僕の場合は当然僕の、一瞬のうちに脳裏をよぎる記憶だったり、美学だったり、思考だったり、欲望だったりが反映されてるんだけれど、でも、撮られた方はそんなことは知ったこっちゃないわけで。その知ったこっちゃないものが残るんだよ。
(「佃島」より)
撮り手の意図は写真に残らない、残しようがない。撮り手の意図によってシャッターは押されるが、それは写真に残らない。
スナップとは何か?
「ほとんどの人は日常しか撮ってないでしょう。つまり、基本的に異界に入り込んでいない。でも、街はいたるところが異界だからさ。街をスナップするってことは、その異界を撮るっていうことなんだよ。」
(「序章 スナップとはなにか」より)
人は常識というフィルタで選別された日常を見ている。注意深くものを見ることで「異界」を見つけることができる。光の加減、風の向きの変化、そんな一瞬の中に「異界」は存在する。
まとめ
強い写真を撮る。そこに撮り手の意思はなく、強い被写体があるだけなのだろう。よく物を見て、「異界」を見つける。それが撮れるかどうかは、偶然次第。スナップとはそういうものと森山大道は言っている気がする。
森山大道が使用するカメラはRICOHのGRであった。単焦点のコンパクトカメラである。シンプルな道具を使う点にも、自分の撮りたい欲求にのみにこだわる姿勢を見る。
- 作者: 森山大道
- 出版社/メーカー: 月曜社
- 発売日: 2009/09/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 17回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
RICOH デジタルカメラ GRII APS-CサイズCMOSセンサー ローパスフィルタレス 175840
- 出版社/メーカー: リコー
- 発売日: 2015/07/17
- メディア: Camera
- この商品を含むブログを見る