kotaの雑記帳

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「神去なあなあ日常」(三浦しをん):都会っ子が林業にハマる話

神去なあなあ日常

神去なあなあ日常

 

 

 小説「神去なあなあ日常」(三浦しをん)は、例えて言うなら、突然、異世界に放り込まれた少年が、そこで出会った仲間たちに助けられて冒険を繰り広げる物語だ。

 この異世界の設定が秀逸。そこは林業を生業としたド田舎である。大都会横浜からド田舎に放り込まれた少年にとって、そこは都会の常識が通用しないまさに異世界である。

 この小説を原作とした映画「WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜」は、最優秀アジア映画賞(第18回富川国際ファンタスティック映画祭)や日本アカデミー賞の優秀助演男優賞などの様々な賞を受賞している。

 

 小説のキーワードの一つは、タイトルにある”なあなあ”で、「ゆっくり行こう」「まぁ落ち着け」の意味だ。もう一つのキーワードは"なっともしゃあない"、「どうしようもない」という意味。小説の舞台である神去村(異世界、ド田舎)の人々は、大抵のことを”なあなあ”と”なっともしゃあない”で片付けていく。

 どうして村人がこの”なあなあ”と”なっともしゃあない”という性質を身に付けたのかを意識して読むと、この小説は一層面白い。林業の特徴がこの性質に深く関わっている。

 都会では、知識やコミュニケーション力などスキルを磨くことが成功の秘訣だと思われている。そこには、人の努力や才能で人生が決まるという考え方が根底にある。一方で、この小説では、人の努力でどうにかできることは僅かであるという世界感で溢れている。

 例えば、やんちゃで暴れん坊の仲間ヨキが、山で飼い犬がヘビを殺したとき、そのヘビを埋めてお供え物をする。それを見て別の仲間が主人公に言う。

「山ではなにが起こるかわからない。最後は神頼みしかないんだよ。だから、山仕事をする者は無駄な折衝をつつしむ」

                (第2章 神去の神様より)

 また、何十年も前から植林し下草刈や枝打ちなどの手入れを続けた山が、よそ者のタバコの不始末で火事になり焼けたときも

 でも、責めたり犯人探しをしようとしたりする村人はいなかった。燃えてしまうこともある。なあなあだ。

 焼けただれた山を前に、誰もがただ無口だった。

                  (第4章 燃える山より)

 

 

 このような都会とは異なるド田舎の世界感に触れることが、主人公にとって冒険であり、その冒険がとても軽妙でテンポの良い文章で書かれている。このテンポの良さを味合うことも、この小説の楽しみだ。

 

まとめ

  この小説は、異世界に放り込まれた少年の冒険話。異世界とはド田舎のことで、冒険とは都会とは全く違う価値観の生活だ。人の努力や才能でなんとかなることなどほんの僅かしかないという世界感を、重くせず軽いテンポの良い文章で描いているところが秀逸。

 多く売れた本らしく、続編「神去なあなあ夜話」も出版されている。こちらも読んだ。面白かった。