kotaの雑記帳

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「モダンタイムス」(伊坂幸太郎)の感想:ヤバいヤバい、検索したら襲われる

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 伊坂幸太郎の小説を10冊ほどまとめて読みました。面白いですね、彼の小説。

 この記事では、「モダンタイムス」について感想を書きます。これは、小説「魔王」から50年後のことを描いていますが、「魔王」を読まなくても十分楽しめます。伊坂幸太郎が、タイトルを「モダンタイムス」とした意味を考えながら読むと、一層楽しめます。

 

あらすじ

 会社の先輩が失踪した。システム会社に勤める渡辺拓海は、その先輩の仕事を引き継ぐことになった。それはある出会い系サイトの仕様変更だった。しかし、客先から提供される情報が少なく、プログラムを完成させることができない。顧客は、神を意味するゴッシュという名の会社。そんな中で、そのサイトを検索した上司や同僚が次々に不幸に襲われる。

 

登場人物

  • 渡辺拓海:システム会社の社員。会社の同僚 桜井ゆかりと浮気している。
  • 渡辺佳代子:拓海の妻。浮気する男を何よりも嫌い、夫が浮気していないか常に疑っている。
  • 五反田正臣:渡辺拓海の先輩。優秀なシステムエンジニア。
  • 永島丈:国会議員。中学校襲撃事件を解決した英雄。

 

感想

 小説は、カッコいいフレーズから始まり、

実家に忘れてきました。何を?勇気を。

 そして、小説の最後は、これに呼応したフレーズで締められます。

「勇気は彼女が」と妻の佳代子を指差した。「彼女が持っている。俺が無くしたりしないように」

 洒落たフレーズが小説中に散りばめられている、これが伊坂幸太郎の持ち味。フレーズのひとつひとつが洒落ているだけでなく、他の何かとつながっている、つまり伏線が張られている、ことも多い。例えば、“人生は要約できない”というフレーズは、色んな場所で効いています。例えば、安藤詩織が自分の夫の潤也がこれまで何をしてきたかと問われて、「まあ、いろいろあったんだよね」と答えるところがありますが、人生が要約できないからこそ、こう答えるしかなかったのでしょう。また別の答え方をしているところでも、“人生は要約できない”が効いています。

「そう。私と潤也君の三十代は、そんな試行錯誤の日々だったんだよね」

「四十代になってどうなったんですか」

「それはね」意味ありげに安藤詩織はそこで間を空けた。私の反応を楽しんでいるのだろう。「やっぱり試行錯誤の日々」

 小説中のお洒落フレーズと伏線を探しながら読むと、この小説は一層楽しめると思います。

 

 「そういうことになっている」、これは小説のキーワードです。

 ユヴァル・ノア・ハラリ氏の書いた「サピエンス全史」では、人類は虚構を信じることによって発展してきたと書かれています。虚構とは、現実には存在しないけれど皆が信じているものを指す。例えば、国も虚構です。人類の多くがそう信じることで、日本という国が成立しています。言い換えれば、日本という国が存在する「そういうことになっている」わけです。

 資本主義、お金、宗教、そういったものすべてが実体のない虚構であって、実体がない(つまり、根拠や理由がない)からこそそれを壊すことは難しい。これらをなかったことにすることは不可能で、別の虚構で置き換えることしかできない、そう感じます。

 小説のタイトル「モダンタイムス」は、チャップリンの同名映画に由来すると思います。チャップリンは、この映画でシステムの中の細分化された一部、つまりシステムの歯車となって人を働かせる社会では、個々の人間性が失われている、と皮肉っています。システムの一部となることで、自分の仕事を「そういうことになっている」と思考停止して実行することは、システム全体としてとんでもない機能を果たすことに通じるという怖さを描いたのでしょう。

 

 さて、桜井ゆかりはなぜ渡辺拓海と浮気したのか?という点が謎です。

 桜井ゆかりとの浮気話により、妻 佳代子の異常さが際立ちます。その佳代子の壁を突破するために、莫大な金と手間をかけて桜井ゆかりは渡辺拓海にアプローチするわけですが、私には渡辺拓海のある特殊な能力を手に入れるためと思えます。

 また、佳代子はなぜ拓海と結婚したのか?というのも同様の謎です。佳代子は「あなたには特別な能力がある」と繰り返し言います。その特別な能力とは、拓海の超能力のことのように思えます。

 このあたりは、行間を好きに読んで勝手に想像すれば良い部分でしょう。あなたは、どう思いますか?

 

 最後に、この小説は「魔王」から50年後の世界として描かれています。私は、この小説を読んでから、魔王を読み、もう一度この小説を読んだのですが、魔王を読むと一層深くこの小説のことが分かって面白い。

 安藤潤也は莫大な金を、世の中をよくするためにあるいはスカートを直すために使いたいと言っていたと、安藤詩織が言うシーンがありますが、スカートを直すとはどういうことか魔王を読むと分かります。

 

名言

あなた、ロボット?充電式?じゃないわよね?だったら、考えるのよ

 私たちがネットを検索するとき、分かり易い記事をついつい探しています。分かり易いことの裏側には複雑なことや色々なことがあったりしますが、そういうところは無視して分かり易い所だけ読みがちです。ロボットじゃないのなら、考えたいものです。

 

まとめ

 伊坂幸太郎の「モダンタイムス」を読みました。

 システムの歯車として仕事をこなす人と、そんな人が集まったシステムとしての社会の機能の対比が面白い小説でした。

 洒落た会話が散りばめられていて、ストーリーだけでなく表現に注意して読むのも楽しい。

 

モダンタイムス(上) (講談社文庫)

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